対象読者

  • AIを使った生体内シミュレーションや、Virtual Cell(仮想細胞)の研究に興味がある方。
  • AIによる医薬品開発、分子設計、タンパク質・抗体の機能予測、生物学的基盤モデルの研究動向に興味がある方。
  • MAMMALの研究史上の位置づけ、技術的な特徴、暗黙の前提、限界、今後の研究課題を詳しく理解したい方。

要約

  • MAMMALは、異なる生物学的対象を共通の表現形式に変換し、一つのアーキテクチャで多数の創薬タスクを扱えることを示したGeneralist Foundation Modelです。
  • MAMMALには、生物学的情報を配列表現へ圧縮しても重要な情報が保持されること、異なるタスクや領域の間に共有可能な規則性があることなど、7つの重要な暗黙の前提が考えられます。
  • 原著論文では11のDownstream Tasksのうち9つでState-of-the-Art(SOTA)を達成し、未知のタンパク質クラスや新規薬物に関する限定的な検証も実施しています。しかし、未知条件への体系的な汎化、因果メカニズムの理解、動的な細胞状態の予測については十分な実証がありません。
  • 共通の言語で生物学的データを扱えることと、生物学的現象の背後にある共通原理を学習していることは、同じではありません。
  • 今後の重要な課題は、共通表現の有効性を厳密に検証するとともに、3D構造、物理的・生物学的メカニズム、時間変化、未知条件への汎化をどのように実現するかにあります。

1. はじめに:MAMMALは何を実現し、何を実現していないのか

MAMMAL(Molecular Aligned Multi-Modal Architecture and Language)は、タンパク質、抗体、低分子化合物、遺伝子発現、連続数値など、異なる生物学的データを共通の表現形式で扱うことを目指した基盤モデルです。

2024年10月28日にプレプリントが公開され、2026年5月4日に査読版が npj Drug Discovery に掲載されました。[1][2]

MAMMALの研究上の価値は、異なる生物学的対象を共通の表現形式に変換し、一つのアーキテクチャで多数の創薬タスクを扱えることを示した点にあります。

原著論文では、11のDownstream Tasksのうち9つでState-of-the-Art(SOTA)を達成したと報告しています。[2]

これは、MAMMALの重要な研究成果です。

しかし、ここから「生物学的現象を統一的に理解した」「未知の薬物の作用機序を理解できる」「細胞の振る舞いをシミュレーションできる」と結論するには、まだ重要な飛躍があります。

特に、次の3つを区別する必要があります。

1.1. 論文が実証していること

MAMMALが実証している中心的な成果は、複数種類の生物学的入力を共通モデルで処理し、タスクごとにFine-tuningすることで、多様なベンチマークにおいて高い予測性能を達成できることです。

具体的には、低分子の性質予測、Drug–Target Interaction(DTI)、Protein–Protein Interaction(PPI)、薬物に対する細胞応答の予測、抗体設計などを扱っています。

このことは、異なる生物学的対象を個別のモデルだけで処理するのではなく、共通のアーキテクチャで扱うアプローチが有効である可能性を示しています。

1.2. 設計が暗黙に期待していること

MAMMALの設計には、生物学的対象の本質的な情報は、アミノ酸配列、SMILES、遺伝子発現順位などに圧縮しても十分に保持され、異なるタスクの学習を共通のパラメータに集約することが有益である、という期待があります。

しかし、共通のモデルで多様なタスクを扱えることと、そのモデルが生物学的に意味のある共通の知識を獲得していることは、必ずしも同じではありません。

1.3. 実証が十分でないこと

MAMMALについて、さらに検証する必要があるのは、以下のような能力です。

  • 未知の薬物、標的、細胞、実験条件への体系的な汎化
  • 生物学的な因果メカニズムの理解
  • 3D構造や物理的相互作用の正確な表現
  • 細胞状態の時間的変化の予測
  • 複数の介入に対する応答の予測
  • 実際の創薬プロセスにおける一貫した有効性

MAMMALは、これらの能力が存在しないことを示した研究ではありません。

むしろ、共通表現による多様な予測を実現した一方で、これらの能力を十分に確立するための検証が今後必要になる研究と考えられます。

したがって、MAMMALは「生物学の統一モデル」というよりも、「生物学的データと予測タスクを共通化するGeneralist Foundation Model」と位置づけるのが正確です。

この違いは重要です。

共通表現で多くの問題を解けることと、それらの問題の背後にある共通の生物学的法則を学習していることは、同じではないからです。

2. 研究史から見たMAMMALの位置づけ

MAMMALの研究史上の位置づけを理解するためには、生物学的基盤モデルの発展を単純な時系列だけでなく、異なる研究方向として捉えることが重要です。

特に、少なくとも次の2つの発展軸があります。

2.1. 第1の軸:生物学的対象・タスクを統合する方向

2019〜2022年ごろには、タンパク質、低分子化合物、細胞など、個別の生物学的対象に特化した基盤モデルが発展しました。

例えば、タンパク質ではESM、低分子化合物ではMoLFormer、細胞ではGeneformerなどの研究が進みました。[3][4][5]

これらの研究では、それぞれの対象に適した大規模データを用いて、Transformerなどによる表現学習が行われました。

その後、BioT5、Tx-LLM、MAMMALなど、異なる生物学的データやタスクを統合する研究が発展しました。[1][6][7]

この方向における中心的な問いは、次のようなものです。

「どれだけ多くの生物学的対象やタスクを、共通のモデルで扱えるのでしょうか。」

MAMMALは、この方向で明確な成果を示しました。

タンパク質、低分子、抗体、細胞の遺伝子発現などを共通のStructured Promptとして表現し、分類、回帰、配列生成といった異なるタスクを一つのアーキテクチャで扱えるようにしています。

2.2. 第2の軸:生物現象の構造・メカニズムを表現する方向

一方、Uni-Mol、ESM3、RFdiffusionなどは、分子の3次元構造や生成可能性など、対象の内部にある性質をより詳細にモデル化してきました。[8][9][10]

この方向では、生物学的対象を単に文字列として扱うだけではなく、原子の空間配置、分子構造、機能、生成時の構造的制約などをどのように取り込むかが重要になります。

中心的な問いは、次のようなものです。

「生物学的な現象を正確に予測するためには、何を表現しなければならないのでしょうか。」

MAMMALは、この第2の軸を深く追求する設計ではありません。

MAMMALの主要な入力は、アミノ酸配列、SMILES、発現順位付きの遺伝子列などの1次元表現です。

原著論文でも、共通のSequence-to-Sequence表現の単純さと、3D構造を生成する専門モデルの表現力をどのように両立するかが、未解決の課題として挙げられています。[2]

2.3. MAMMALは2つの発展軸のどこに位置するのか

この2つの発展軸を整理すると、次のようになります。

研究方向 代表的なモデル 主な特徴
個別対象の表現学習 ESM、MoLFormer、Geneformer タンパク質、低分子、細胞など、各対象に特化した表現学習
対象・タスクの統合 BioT5、Tx-LLM、MAMMAL 異なる生物学的対象やタスクを共通モデルで扱う
構造・機能の詳細な表現 Uni-Mol、ESM3、RFdiffusion 3D構造や機能、構造的制約を重視する
より豊かなモダリティの統合 BioMatrix 配列、構造、自然言語の統合
生物学的メカニズムと未知条件への汎化 MAP 知識を利用した未知薬物への細胞応答予測

BioMatrixやMAPは2026年に報告された研究であり、MAMMALとは異なる課題設定を持っています。[11][12]

そのため、これらをMAMMALの単純な上位互換と捉えることは適切ではありません。

MAMMALは生物学的対象とタスクの広さを重視しており、ESM3やBioMatrixは対象内部のモダリティの深さを重視しています。

また、MAPは生物学的メカニズムに関する知識を活用し、未知薬物に対する細胞応答の予測を重視しています。

このように、研究は単純な直線的進歩ではなく、複数の方向に発展しています。

ここから、研究史上のより重要な問いが見えてきます。

「生物学において、共通の表現で予測できることは、共通の原理を学習したことを意味するのでしょうか。」

この問いこそ、MAMMALの暗黙の前提を検討する中心になると考えられます。

3. MAMMALが暗黙に置いている7つの前提

ここからは、MAMMALのアーキテクチャ、学習方法、評価方法から読み取れる暗黙の前提を整理します。

以下の7つは、すべてが論文中で著者によって明示的に主張されているわけではありません。

モデルの設計から推論される仮説を含んでおり、それぞれを独立して検証する必要があります。

3.1. 前提①:生物学的情報は1次元の配列に変換しても、予測に必要な情報を保持できる

これはMAMMALの設計における、特に重要な前提の一つです。

MAMMALでは、タンパク質をアミノ酸配列、低分子化合物をSMILES、細胞を発現順位付きの遺伝子列として扱います。

また、連続数値は学習可能な投影層を通して埋め込み空間に取り込まれます。[2]

これらの表現を整理すると、次のようになります。

対象 MAMMALでの主な表現 明示的に含まれない情報
タンパク質 アミノ酸配列 立体構造、構造揺らぎ、翻訳後修飾
低分子化合物 SMILES コンフォマー、3D配置。立体化学の一部は記述可能ですが、空間構造そのものではありません
細胞 遺伝子発現順位 発現量の詳細、タンパク質活性、空間配置、細胞履歴
分子間相互作用 配列の組み合わせ 結合姿勢、溶媒、熱力学的・動力学的状態

この設計には、多くの生物学的タスクは、こうした配列表現から十分に予測できるという帰納的バイアス(Inductive Bias)があります。

しかし、ここには重要な問題があります。

例えば、タンパク質のアミノ酸配列から3D構造を推定することは可能ですが、実際の構造や機能は環境や結合相手によって変化し得ます。

また、同じ細胞の遺伝子発現順位であっても、タンパク質のリン酸化状態などが異なれば、細胞の機能が変化する可能性があります。

つまり、配列から3D構造や細胞機能を推定できることと、それらが一意に決定されることは同じではありません。

MAMMALの課題は、単に「3D情報を追加すると精度が上がるか」ではありません。

「そもそも現在の入力表現だけで、予測したい生物学的現象が一意に決定できるのでしょうか。」

この問いを検証することが重要です。

3.2. 前提②:異なる生物学的対象の間には、共有可能な規則性が存在する

MAMMALは、タンパク質、低分子化合物、遺伝子発現などについて、共有Transformerのパラメータを使って学習します。

この設計には、異なる領域のデータを共同学習させることで、相互に有益な特徴を獲得できるという期待があります。

しかし、共通のニューラルネットワークで学習できることと、生物学的に意味のある共通の潜在表現が生まれることは別です。

例えば、以下の可能性が考えられます。

  • 領域間の知識転移が実際に起きている。
  • 各領域で実質的に別々の特徴が学習されている。
  • 大規模事前学習による正則化効果が生じている。
  • 多くのタスクを同時に学習することで、一部のタスクに干渉が生じている。

これらの可能性は、最終的な予測精度だけでは区別できません。

検証するためには、単一ドメイン学習、複数ドメイン学習、特定モダリティの除去、共有パラメータの制限などを比較する必要があります。

原著論文で示された高いベンチマーク性能だけでは、共有表現の生物学的な意味まで確立されたとは言えません。

3.3. 前提③:タスク間の学習は互いに利益をもたらす

MAMMALは、分類、回帰、配列生成を共通の枠組みで扱います。

これには、複数のタスクを学習することで、共通の表現がより有用になるという期待があります。

しかし、分類のために有用な情報と、分子の生成のために有用な情報は、必ずしも一致しません。

そのため、タスクを増やすことが常に性能改善につながるとは限りません。

場合によっては、Negative Transfer(負の転移)が発生する可能性があります。

例えば、あるタスクでは高い性能を達成できても、別のタスクでは専用モデルより性能が低下する可能性があります。

この前提を検証するには、総合的なベンチマークスコアだけでは不十分です。

「どのタスクから、どのタスクへ、どの程度の知識転移が起きたのでしょうか。」

この関係を切り分ける実験が必要です。

3.4. 前提④:観測データから学習した相関関係は、新しい条件にも利用できる

これは、創薬研究において特に注意すべき前提です。

MAMMALの多くのタスクは、観測された分子特性や実験結果を教師データとして学習します。

しかし、観測データには、どの化合物が合成され、どの標的が測定され、どの細胞株が使われたかという選択バイアスが含まれています。

そのため、モデルが生物学的なメカニズムではなく、測定データの分布に特有の規則性を学習している可能性があります。

例えば、ランダムなTrain/Test分割で高い予測性能を達成しても、以下の条件で性能が維持されるとは限りません。

  • 学習データに存在しない化学骨格
  • 学習データに存在しない標的タンパク質
  • 異なる細胞タイプや細胞株
  • 異なる測定施設や実験条件
  • 学習時とは異なるデータ分布

このような問題は、Out-of-Distribution(OOD)Generalization、すなわち分布外汎化の問題です。

MAMMALについても、ランダム分割による性能だけでなく、未知条件に対する性能を体系的に評価することが重要です。

3.5. 前提⑤:静的な分子・細胞表現から、生物学的機能を十分に予測できる

これは、Virtual Cellとの関連で特に重要な前提です。

MAMMALの主要な入力は、ある時点で測定された分子や細胞状態です。

一方、実際の細胞は動的なシステムです。

例えば、同じ初期の遺伝子発現状態であっても、投与量、投与時間、周囲の細胞、過去の刺激履歴が異なれば、応答は変わり得ます。

また、薬物投与後の細胞状態は時間とともに変化します。

したがって、ある時点の細胞状態から特定の予測値を出すモデルと、時間経過に沿った細胞状態の変化を予測するモデルには、本質的な違いがあります。

MAMMALが特定の薬物応答を高精度に予測できることは、細胞の動的な状態遷移を再現できることを直接意味しません。

3.6. 前提⑥:大規模な事前学習は、実用的な生物学的知識を獲得する

MAMMALでは、約20億の事前学習サンプルが使用されています。[2]

これは大規模な学習ですが、サンプル数の大きさだけでは、独立した生物学的知識の量を測ることはできません。

例えば、似た配列、重複する測定、偏った実験条件などが多数含まれる可能性があります。

また、2026年の単一細胞基盤モデルに関する研究では、事前学習データを増やしても性能改善が頭打ちになり、明瞭なデータスケーリング則が観察されないことも報告されています。[13]

これはMAMMAL自体の学習効率が悪いという証拠ではありません。

しかし、「データを増やせば生物学の理解が深まる」という前提は、モデルやタスクごとに検証する必要があります。

重要なのは、事前学習データの量だけではなく、データの多様性、独立性、測定品質、下流タスクとの関係です。

3.7. 前提⑦:多数のタスクで高性能なら、創薬の全体的な有用性も高い

MAMMALでは、異なるベンチマークで個別にFine-tuningした結果が報告されています。

しかし、創薬の成功には、結合親和性や細胞応答だけでなく、ADMET、選択性、製造可能性、臨床安全性など、多数の条件を同時に満たす必要があります。

各タスクの予測精度が高くても、それらを組み合わせた候補選択が成功するとは限りません。

例えば、結合親和性が高い分子であっても、毒性が高い、細胞内へ到達できない、安定性が低いなどの問題によって、医薬品候補として適さない可能性があります。

また、個別タスクの予測誤差が、複数の予測を組み合わせる過程で増幅される可能性もあります。

このため、MAMMALの性能を評価する際には、タスク単位の予測性能と、創薬プロセス全体の意思決定性能を区別する必要があります。

4. MAMMALの技術的限界と検証状況

ここまでの暗黙の前提を踏まえて、MAMMALが実際に何を検証しており、何が残された課題なのかを整理します。

まず重要なのは、MAMMALが未知条件をまったく検証していないわけではないという点です。

原著論文では、未観測のタンパク質クラスを含むDTIベンチマークや、GDSCの学習用データに含まれない4種類の薬物を用いた細胞応答の実験検証が実施されています。[2]

したがって、「未知条件への汎化が未検証である」と一括りにすることは適切ではありません。

より正確には、未知条件への汎化について部分的な証拠はあるものの、体系的な検証や広範な実用性の確立には課題が残っている、と整理できます。

4.1. 各能力の検証状況

論点 現在の検証状況 残る課題
多様なタスクへの適用 実証済み 11タスク以外への適応
未知の標的への汎化 一部検証済み 広範な標的群・薬物と標的の両方が未知の条件
未知の薬物への汎化 限定的な実験あり 多数の新規化合物への体系的評価
3D構造の直接表現 対象外 原子・構造情報の利用
細胞の時間的変化 十分な実証なし 時系列・複数時点の応答
生物学的因果メカニズム 実証不十分 介入後の因果予測
Virtual Cell 未実証 状態遷移・複合介入・環境依存性
実際の創薬成功率向上 未実証 前向きの創薬ワークフロー評価

以下では、特に重要な未検証領域を詳しく考えます。

4.2. 未知の薬物・標的・細胞に対する汎化はどこまで可能か

MAMMALの実用性を評価するうえで、最優先で検証すべき課題です。

一般に「未知のデータに対して予測できる」という表現には、いくつもの異なる意味があります。

例えば、未知条件を次の5段階に整理できます。

Level 1:既知の薬物・既知の細胞

学習済みの薬物と細胞について、未測定の組み合わせを予測する条件です。

薬物や細胞の特徴が学習データに含まれているため、相対的には比較的容易な設定です。

Level 2:未知の薬物

学習時に細胞応答データが存在しない薬物について、その作用を予測する条件です。

この場合、薬物の分子構造や他の関連情報から、未知の細胞応答を推定する必要があります。

Level 3:未知の標的・細胞タイプ

学習時に扱っていない標的群や細胞タイプに対する応答を予測する条件です。

学習データに存在する標的や細胞の特徴を単に記憶するだけでは、十分な性能を達成できない可能性があります。

Level 4:未知の薬物 × 未知の細胞 × 新しい条件

薬物、細胞、投与量、測定条件などが同時に変化する条件です。

このような場合には、個々の要素について学習した知識を組み合わせ、未観測の条件に対して予測する必要があります。

Level 5:未知の複合介入・時間発展

複数の薬物や遺伝子操作に対する、時間依存的な細胞応答を予測する条件です。

例えば、2つの薬物を同時に投与した場合や、遺伝子を操作した後に薬物を投与した場合に、細胞状態が時間とともにどのように変化するかを予測します。

これらのLevelは、未知条件の難しさを概念的に整理したものであり、正式な標準分類ではありません。

MAMMALの研究はLevel 1を中心に、Level 2・3に関する限定的な証拠も示しています。

しかし、Level 4・5における頑健な性能を確立したわけではありません。

特に注意したいのは、原著論文に含まれるGDSC1・GDSC2のランダム分割です。

薬物・細胞の組み合わせをランダムに分けた場合、同じ薬物や細胞が学習と評価の両方に現れる可能性があります。

一方、原著論文のDTI評価では、4種類のタンパク質クラスを保留する分割が利用されています。

これは一般的なランダム分割より厳しい未知標的への評価です。[2]

したがって、MAMMALがOODをまったく検証していないとは言えません。

しかし、未知の薬物と未知の標的を同時に保留する評価や、測定時期による分割などは、さらに検討する価値があります。

4.3. 細胞応答の予測で、何を実際に学習しているのか

MAMMALでは、がん細胞株の遺伝子発現と薬物のSMILESから、薬物感受性を予測しています。

しかし、ここで予測しているのは主としてIC50などの測定値です。

細胞内の状態がどのように変化し、その結果として薬物感受性が生まれるのかを直接再現しているわけではありません。

例えば、次の2つは異なります。

  • 薬物Aを細胞Bに与えると、IC50がどの程度になるかを予測する。
  • 薬物Aを与えると、どの分子経路が変化し、その後どの遺伝子が発現し、最終的に細胞死に至るかを予測する。

前者はEndpoint Predictionです。

後者はMechanistic ModelingやDynamic Modelingに関係します。

原著論文では、新規薬物4種類について72時間の細胞生存率実験を行い、薬物間の効力順位がモデル予測と一致したことを報告しています。[2]

これは、ベンチマーク上の数値比較を超えた重要な検証です。

ただし、この結果だけでは、モデルが個々の細胞株でのIC50を高精度に推定したことや、薬物の作用機序を学習したことまでは言えません。

4.4. 予測が正しくても、生物学的メカニズムが正しいとは限らない

これはMAMMAL固有の問題というより、統計的予測モデル一般の問題です。

仮に薬物Aが細胞Bの増殖を抑制することを正しく予測できても、モデルがその理由を適切に捉えているとは限りません。

例えば、薬物Aが特定の標的を阻害した結果なのか、別のOff-target作用なのか、細胞の代謝状態に依存した結果なのかを区別する必要があります。

生物学的メカニズムを学習していることを主張するためには、既知の相関から予測するだけでなく、特定の介入を与えたときに何が変化するかを予測・検証することが重要です。

関連する単一細胞Perturbation Predictionの研究でも、未知の細胞条件や介入への汎化が十分でないケースが報告されています。[14][15]

この問題は、MAMMALだけでなく、生物学的基盤モデル全般に共通する重要な課題です。

4.5. 共通表現は本当に有用なのか

MAMMALの思想を最も直接的に検証するなら、共通アーキテクチャの有用性と、共通事前学習の有用性を区別する必要があります。

例えば、タンパク質と化合物の相互作用予測において、次の3つを比較します。

  1. タンパク質モデルと化合物モデルを別々に学習し、最後に結合する。
  2. 共通Transformerを使うが、事前学習は対象領域に限定する。
  3. MAMMALのように複数領域・複数タスクを共同学習する。

ここで3番目が明確に優れていれば、統合事前学習の価値を支持する証拠になります。

さらに、評価データ量を変えて比較すれば、MAMMALの価値が少数データへの転移にあるのか、大量データでの最終性能にあるのかも分かります。

ただし、今回確認した論文本文だけでは、このような一連の統制実験が十分揃っているとまでは断定できません。

この点については、補足資料や公開コードまで含む詳細なアブレーション分析が必要です。

4.6. 分子の生成と、実験で使える分子の設計は異なる

MAMMALの抗体設計ベンチマークでは、抗体のCDR領域のアミノ酸配列を補完し、正解のアミノ酸を回復する能力であるAmino Acid Recovery(AAR)を評価しています。

CDRH3について改善が報告されており、配列生成能力の証拠として重要です。[2]

しかし、AARが高いことと、生成した新規抗体が高い結合親和性、選択性、安定性を持つことは同じではありません。

例えば、以下の項目は別に実証する必要があります。

  • 新しい標的に対して結合するか。
  • 既存抗体より結合親和性が改善するか。
  • 意図しない標的への結合が増えないか。
  • 発現量、凝集、熱安定性などの開発適性を満たすか。
  • 実験条件や抗原構造が変わっても性能が維持されるか。

原著論文の配列補完結果だけから、これらすべてを達成したとは解釈できません。

5. MAMMALの評価結果はどのように読むべきか

MAMMALの原著論文は、多様なベンチマークで高い性能を報告しています。

ただし、その結果を解釈する際には、実際に評価された能力と、そこから一般化できる範囲を区別する必要があります。

5.1. 11タスク中9タスクSOTAの意味

MAMMALは、11のDownstream Tasksのうち9つでSOTAを達成したと報告しています。[2]

これは、幅広いタスクに対して共通アーキテクチャを適用できることを示す重要な成果です。

一方、比較対象は、各ベンチマークにおいて比較可能な結果が報告されているモデルなどに限られます。

また、タスクによってBaseline、データ分割、Fine-tuning条件が異なります。

そのため、11タスク中9タスクでSOTAを達成したことは、すべての創薬タスクにおいて、あらゆる既存モデルより優れていることを意味しません。

5.2. AlphaFold 3との比較

MAMMALの論文では、AlphaFold 3との比較も行われています。[2][16]

しかし、この比較については慎重な解釈が必要です。

MAMMAL側は、Fine-tuningされた結合予測Classifierです。

一方、AlphaFold 3側では、構造予測から得られるConfidence Scoreを、結合可能性のProxyとして使用しています。

つまり、両者が完全に同一の目的で学習されたモデルを、そのまま比較しているわけではありません。

したがって、特定の二値分類タスクでMAMMALが高い性能を示したとしても、MAMMALがAlphaFold 3の構造・複合体予測能力を一般的に上回るとは言えません。

5.3. 各評価結果から何が言えるのか

評価結果 言えること 言えないこと
11タスク中9タスクSOTA 選定された既存ベンチマークにおける競争力 創薬全領域で最高性能
AlphaFold 3との比較 特定の結合分類タスクでは、Fine-tuning済みMAMMALがAF3のConfidence Proxyより有効 MAMMALがAF3の構造・複合体予測能力を上回る
抗体CDR生成のAAR改善 既知配列の補完性能が高い 新規抗体の結合・創薬適性が保証される
GDSCの薬物応答予測 特定の細胞株・薬物データで感受性予測が可能 未知患者の臨床応答を予測できる
新規4薬物での実験 限定された薬物集合で効力順位を再現 一般的な新規化合物に対する定量精度を確立した
共通アーキテクチャの成功 多様なデータ・タスクを単一モデルで実装できる 共通の生物学的機序が内部に形成された

このように、MAMMALの成果を評価する際には、ベンチマークの結果をそのまま一般的な生物学的理解や創薬能力として解釈しないことが重要です。

2026年のBiomedical Foundation Modelのベンチマーキングに関するPerspectiveでも、Reproducibility、Generalization、Replicabilityなどをどのように評価するかが重要な課題として論じられています。[17]

MAMMALについても、平均的な予測精度やSOTAの数だけでなく、未知条件、再現性、実験的な有効性を合わせて評価する必要があります。

6. 研究として次に何を検証すべきか

ここまでの分析を踏まえると、MAMMALの中心的な仮説を評価するために、以下のような実験が重要と考えられます。

6.1. 検証すべきテーマの優先順位

優先度 検証テーマ 推奨する実験 何が分かるか
P0 未知条件への汎化 Drug-cold、Target-cold、Double-cold、Temporal Split 観測データの記憶を超えて予測できるか
P0 統合事前学習の価値 単独事前学習・複合事前学習・学習なしを比較 複数ドメイン間に本当の知識転移があるか
P0 生物学的因果性 遺伝子ノックアウト、薬物介入、Rescue実験 相関ではなく介入効果を捉えているか
P1 表現の情報損失 配列のみ・3D追加・Omics追加の比較 何が予測に不可欠な情報なのか
P1 遺伝子発現の順位表現 順位のみと発現量を保持した表現を比較 発現量を圧縮することの損失
P1 実験バッチ・施設間転移 施設・測定機器・細胞株系統単位の分割 測定条件への依存性
P1 予測の信頼性 Calibration、Uncertainty、Abstention 誤予測を事前に検出できるか
P2 分子生成の実用性 新規抗体生成とWet-lab検証 生成能力が実際の分子設計につながるか
P2 計算効率 同精度での計算量・データ量・保守コスト比較 共通モデルの実用的価値

この中でも、特に重要なのは、未知条件への汎化、統合事前学習の価値、生物学的因果性の3つです。

6.2. 未知条件への汎化を検証する

まず、既知の薬物・標的の組み合わせでの性能と、未知の薬物・標的に対する性能を区別します。

具体的には、Drug-cold、Target-cold、Double-cold、Temporal Splitなどを利用します。

これにより、モデルが学習データの分布に依存した規則性を記憶しているのか、それとも未観測の条件に対して有効な知識を学習しているのかを評価できます。

6.3. 統合事前学習の価値を検証する

次に、単一ドメインの事前学習、複数ドメインの共同事前学習、事前学習なしのモデルを比較します。

この比較によって、MAMMALの性能向上が共通アーキテクチャによるものなのか、複数領域の知識転移によるものなのか、単に学習データやモデル容量が大きいことによるものなのかを切り分けられます。

また、同じ計算資源とデータ量を利用する条件で比較することも重要です。

6.4. 生物学的因果性を検証する

さらに、遺伝子ノックアウト、薬物介入、Rescue実験などを使って、モデルの予測が介入による変化を捉えられるかを検証します。

例えば、ある遺伝子が薬物応答に重要であると予測された場合、その遺伝子をノックアウトすると薬物応答がどのように変化するかを予測します。

その結果が実験と一致するかを調べることで、単なる相関予測を超えた能力を検討できます。

これらの評価によって、MAMMALが単なるマルチタスク学習モデルなのか、異なる生物学的対象をまたいだ転移可能な表現を獲得しているのか、さらに介入予測にも使えるのかを段階的に検証できます。

また、モデルのスケールを増やす前に、単純な統計モデル、専用のGraph Neural Network(GNN)、単一領域の事前学習モデルと、同じデータ条件・同じ予測タスクで比較することが重要です。

7. Virtual Cellの観点で、MAMMALに欠けているもの

生体内シミュレーションやVirtual Cell(仮想細胞)を考えると、MAMMALの課題はさらに明確になります。

一般にVirtual Cellを目指すなら、細胞がある状態から、時間や介入に応じて次の状態へ変化することを表現したいはずです。

概念的には、次のように書けます。

[ x_{t+\Delta t} = F(x_t, u_t, e_t, \Delta t) ]

ここで、それぞれの変数は以下を表します。

  • (x_t):時刻 (t) における細胞状態
  • (u_t):薬物投与や遺伝子操作などの介入
  • (e_t):細胞外環境
  • (\Delta t):時間間隔
  • (F):細胞状態の変化を表す関数

MAMMALの実証済みの中心的な機能は、こうした状態遷移関数そのものの学習ではありません。

主として、入力された分子・細胞情報から特定の性質や実験Endpointを予測することです。

7.1. Endpoint PredictionとDynamic Modelingの違い

MAMMAL型のタスク予測では、分子や細胞の情報を入力し、IC50、結合可能性、分類結果などを出力します。

一方、Virtual Cellが目指す動的予測では、ある時点の細胞状態から、介入、時間、環境などに応じた将来の細胞状態を予測する必要があります。

さらに、予測された状態から次の状態へ進める能力や、その状態が生物学的に妥当であることを検証する必要があります。

つまり、Endpoint PredictionとDynamic Modelingは異なる問題です。

7.2. Virtual Cellに必要な4つの要件

この違いから、Virtual Cellに向けて少なくとも次の4つの要件が導かれます。

第1に、状態の十分性です。

観測された細胞の特徴が、将来の状態を予測するために十分である必要があります。

もし予測に重要なタンパク質活性や細胞履歴が入力に含まれていなければ、正確な予測は難しくなる可能性があります。

第2に、時間発展です。

異なる時間間隔における遺伝子、タンパク質、細胞状態の変化を予測する必要があります。

ある時点のEndpointだけでなく、状態がどのような経路をたどって変化するかが重要になります。

第3に、介入への応答です。

未観測の薬物、遺伝子操作、複合介入に対する応答を予測できる必要があります。

これは、単なるデータ分布内での予測とは異なる能力です。

第4に、階層間の整合性です。

分子レベルの変化と、細胞・組織レベルの結果を矛盾なく結びつける必要があります。

例えば、タンパク質への薬物結合、シグナル伝達の変化、遺伝子発現の変化、細胞機能の変化を、整合的に扱うことが求められます。

7.3. MAMMALはVirtual Cellの構成要素になり得るのか

MAMMALは、このようなシステムの構成要素として活用できる可能性があります。

例えば、分子間相互作用や特定の細胞応答を予測するモジュールとして利用することが考えられます。

ただし、MAMMALだけでVirtual Cellを実現できるとする証拠は、現状では不足しています。

Virtual Cellの実現には、共通表現による対象・タスクの統合だけでなく、動的な状態遷移、因果的な介入効果、環境依存性、異なる生物学的階層の整合性などを扱う仕組みが必要になります。

この点で、MAMMALの研究成果は重要な基盤となり得ますが、完成されたVirtual Cellそのものではありません。

8. MAMMALの研究を評価するうえで追加すべき論点

ここまでの調査を踏まえると、MAMMALの研究史上の位置づけを考える際には、特に次の4つの論点が重要になります。

8.1. 共通言語化は共通知識の獲得と同義ではない

MAMMALは、共通のプロンプト構文と共有モデルを実現しました。

しかし、そこで何がどの程度共有されているのかという、知識転移の実証は別の問題です。

異なる生物学的対象を同じモデルで処理できることは、共有表現が生物学的に意味のある知識を獲得していることを直接保証するものではありません。

8.2. 情報の統合と、生物学的現象のモデル化は異なる

BioMatrixなどによる3D表現の拡張は重要です。[11]

しかし、3D構造を扱えば自動的に因果性や動態が理解できるわけではありません。

より豊かなモダリティを扱うことと、より正しい生物学的メカニズムを獲得することも区別する必要があります。

つまり、モダリティを増やすことは重要な研究方向ですが、それだけですべての課題が解決するわけではありません。

8.3. MAMMALの汎化能力は一部検証されている

MAMMALの原著論文には、保留タンパク質クラスでのDTI評価や、新規薬物4種類での実験検証が含まれています。[2]

これらは、未知条件への汎化に関する重要な証拠です。

したがって、MAMMALの汎化能力がまったく検証されていないと評価することは適切ではありません。

一方、それらの結果だけで、広範な未知の薬物、標的、細胞、複合介入に対する予測能力が確立したとも言えません。

このように、実証済みの範囲と、さらに検証が必要な範囲を区別することが重要です。

8.4. 研究史を単純な進歩の直線として描かない

MAMMAL、BioMatrix、ESM3、MAPは、それぞれ異なる課題設定を持っています。

BioMatrixやMAPが後に登場したからといって、MAMMALのすべての能力を上回るわけではありません。

MAMMALの価値は、創薬に関連する多様な対象とタスクを共通アーキテクチャで扱うことを示した点にあります。

一方、BioMatrixは配列・構造・自然言語の統合を、ESM3はタンパク質内部の配列・構造・機能の統合を、MAPは生物学的メカニズムに関する知識を利用した未知薬物への細胞応答予測を重視しています。[9][11][12]

これらは単純な優劣の関係ではなく、異なる研究課題に取り組む方向として理解することが適切です。

9. 総合評価:MAMMALはどこまで評価できるのか

ここまでの議論を踏まえると、MAMMALに対する評価は次のように整理できます。

評価軸 判断 根拠・留保
共通の生物学的入力形式 高く評価 Structured Promptと複数ドメインの統合を実装
多様なタスクへの対応 高く評価 11ベンチマークにおける高い性能
領域間の知識転移 有望だが未確定 統合事前学習自体の寄与の切り分けが重要
未知条件への汎化 部分的な証拠あり 未知標的群や限定された新規薬物で検証
3D・物理的な表現 明確な制約あり 配列中心の表現
生物学的因果性 実証不十分 介入・メカニズム検証が必要
Virtual Cellへの適性 発展可能性あり 動的状態遷移を実証したモデルではない
創薬実務への有効性 さらなる検証が必要 前向きの大規模実験・意思決定評価が不足

9.1. MAMMALが暗黙に前提としていること

MAMMALが暗黙に前提としていることを一文で表現するなら、次のようになります。

「生物学的対象を共通の計算可能な表現に落とし込み、多様なタスクを共同学習させることで、それぞれを個別に学習する以上の汎用的な予測能力を獲得できる」という仮説です。

この仮説は、MAMMALの成果によって一定程度支持されています。

しかし、そこからさらに、「生物学的メカニズムが学習される」「未知の条件へ広く外挿できる」「細胞の動態をシミュレーションできる」という仮説に進むには、別の実験が必要です。

9.2. 今後の研究で最も重要なこと

今後の研究にとって最も重要なのは、単にモダリティを増やすことでも、パラメータ数を増やすことでもありません。

重要なのは、次の問いを明らかにすることです。

「共通表現に何を学習させれば、観測されたデータの範囲を超えて、生物学的に正しい予測ができるのでしょうか。」

この問いを検証するためには、未知の薬物や標的への汎化、異なるドメイン間の知識転移、因果的な介入効果、時間的な細胞状態の変化などを、体系的に評価する必要があります。

また、共通モデルが常に最適であるとは限りません。

特定の分子構造や物理現象については、専門的なモデルの方が高い性能を示す可能性があります。

そのため、Generalist ModelとSpecialist Modelの関係についても、今後の重要な研究課題になります。

10. まとめ:MAMMALが残した問いは何か

MAMMALは、創薬に関連する多様な生物学的対象とタスクを、共通のアーキテクチャで扱う方向を具体的に示した研究です。

この成果は、生物学的基盤モデルの研究史において重要な意味を持っています。

一方で、共通の言語でデータを扱えることと、生物学的なメカニズムを理解していることは同じではありません。

MAMMALの設計には、配列表現が重要な情報を保持すること、異なる領域の間に共有可能な規則性があること、共同学習によって有益な知識転移が生じること、観測データから学習した関係が未知条件にも利用できることなどの暗黙の前提があります。

これらの前提は、MAMMALの研究成果によって一定程度支持されていますが、すべてが十分に検証されたわけではありません。

また、MAMMALは未知のタンパク質クラスや限定された新規薬物について検証を実施していますが、未知条件への体系的な汎化、生物学的因果メカニズムの理解、時間依存的な細胞応答の予測などについては、さらなる研究が必要です。

特にVirtual Cellを考える場合には、単に多様な分子や細胞の情報を統合するだけでなく、時間発展、介入への応答、分子から細胞・組織までの階層間の整合性を扱うことが重要になります。

その意味で、MAMMALは完成された生物学の統一モデルというよりも、生物学的対象とタスクの共通化という重要な可能性を示し、その先にある知識転移、因果性、動態、未知条件への汎化という研究課題を浮き彫りにしたGeneralist Foundation Modelと位置づけられます。

MAMMALの研究上の価値は、多様な生物学的データを同じモデルで扱えるようにしたことだけではありません。

その成果を踏まえて、次のような根本的な問いを考えられるようになった点にもあります。

「生物学的対象を共通の表現に変換するだけで十分なのでしょうか。それとも、未知の条件に対して正しく予測するためには、3D構造、物理的制約、生物学的メカニズム、時間変化を明示的に学習する必要があるのでしょうか。」

この問いは、MAMMALが残した課題であると同時に、次世代の創薬AIやVirtual Cell研究の中心的な問いだと考えられます。

参考文献

[1] Shoshan, Y. et al., “MAMMAL - Molecular Aligned Multi-Modal Architecture and Language,” arXiv preprint, 2024. https://arxiv.org/abs/2410.22367

[2] Shoshan, Y. et al., “MAMMAL - Molecular Aligned Multi-Modal Architecture and Language for biomedical discovery,” npj Drug Discovery, 3, Article 14, 2026. https://www.nature.com/articles/s44386-026-00047-4

[3] Rives, A. et al., “Biological structure and function emerge from scaling unsupervised learning to 250 million protein sequences,” Proceedings of the National Academy of Sciences, 118, e2016239118, 2021. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33876751/

[4] Ross, J. et al., “Large-scale chemical language representations capture molecular structure and properties,” Nature Machine Intelligence, 4, pp. 1256–1264, 2022. https://www.nature.com/articles/s42256-022-00580-7

[5] Theodoris, C. V. et al., “Transfer learning enables predictions in network biology,” Nature, 618, pp. 616–624, 2023. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06139-9

[6] Pei, Q. et al., “BioT5: Enriching Cross-modal Integration in Biology with Chemical Knowledge and Natural Language Associations,” Proceedings of EMNLP, 2023. https://aclanthology.org/2023.emnlp-main.70/

[7] “Tx-LLM: A Large Language Model for Therapeutics,” arXiv preprint, 2024. https://arxiv.org/abs/2406.06316

[8] Zhou, G. et al., “Uni-Mol: A Universal 3D Molecular Representation Learning Framework,” International Conference on Learning Representations (ICLR), 2023. https://arxiv.org/abs/2303.16982

[9] Hayes, T. et al., “Simulating 500 million years of evolution with a language model,” Science, 387, pp. 850–858, 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39818825/

[10] Watson, J. L. et al., “De novo design of protein structure and function with RFdiffusion,” Nature, 620, pp. 1089–1100, 2023. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06415-8

[11] Pei, Q. et al., “BioMatrix: Towards a Comprehensive Biological Foundation Model Spanning the Modality Matrix of Sequences, Structures, and Language,” arXiv preprint, 2026. https://arxiv.org/abs/2606.22138

[12] Feng, J. et al., “A knowledge-driven framework for predicting single-cell responses for unprofiled drugs,” Nature Machine Intelligence, 8, pp. 1478–1491, 2026. https://www.nature.com/articles/s42256-026-01286-w

[13] “Evaluating the role of pretraining dataset size and diversity on single-cell foundation model performance,” Nature Methods, 2026. https://www.nature.com/articles/s41592-026-03120-y

[14] “PertEval-scFM,” 2025. https://arxiv.org/search/?query=PertEval-scFM&searchtype=all

[15] “Benchmarking algorithms for generalizable single-cell perturbation response prediction,” Nature Methods, 2026. https://www.nature.com/articles/s41592-025-02980-0

[16] Abramson, J. et al., “Accurate structure prediction of biomolecular interactions with AlphaFold 3,” Nature, 630, pp. 493–500, 2024. https://www.nature.com/articles/s41586-024-07487-w

[17] Saez-Rodriguez, J. et al., “Benchmarking biomedical foundation models,” Nature Methods, 23, pp. 1724–1733, 2026. https://www.nature.com/articles/s41592-026-03182-y