対象読者

  • 次世代シーケンシング(NGS)やゲノム科学の技術に関心があり、シーケンサーの技術革新と業界構造の変化を理解したい研究者・科学者の方。
  • Ultima Genomicsの創業背景、技術開発、製品戦略、資金調達、事業展開について詳しく知りたい方。
  • ゲノミクス、single-cell、proteomics、がん診断などの分野における新興企業の成長戦略や、研究開発から商用化への移行に関心のある方。

要約

  • Ultima Genomicsは、半導体製造技術を背景に持つGilad Almogyが2016年に創業した、超高スループット・低コストDNAシーケンシング企業です。
  • 2022年に約6億ドルの累計資金調達と「100ドルゲノム」を発表し、2024年のUG 100商用化、2025年のSolaris、2026年のUG200シリーズへと製品を進化させました。2026年には「60ドルゲノム」を打ち出しています。
  • 注力領域は、WGSを中心とする技術実証から、single-cell RNA-seq、がんMRD、proteomics、大規模集団ゲノム、AI向けマルチオミクスへと広がっています。
  • 技術的な課題を改善しながら、大規模研究機関や臨床検査企業との連携を通じて市場を開拓してきました。一方、装置稼働率、収益性、臨床用途での普及などは、今後も評価が必要です。
  • 同社の将来を左右するのは、単にシーケンス単価を下げることではなく、大規模な分子計測を支える標準的なプラットフォームになれるかどうかだと考えられます。

1. Ultima Genomicsとは何か:企業の全体像

Ultima Genomicsは、2016年に設立された米国のDNAシーケンシング企業です。

同社の特徴は、従来のNGS技術を部分的に改良するのではなく、半導体製造技術の考え方を取り入れ、シーケンシングのコスト構造そのものを変えようとしている点にあります。

創業者のGilad Almogyは、半導体製造装置大手Applied Materialsで上級幹部を務めた経験を持つ起業家です。

Ultimaは、従来型のflow cellやsequencing-by-synthesis(SBS)の制約に対して、open fluidics、wafer-based sequencing、mostly natural sequencing-by-synthesis(mnSBS)、computational base callingを組み合わせた独自のアーキテクチャを開発しました。[1][2][3]

同社の成長を理解するうえでは、単にIlluminaより安いDNAシーケンサーを開発した企業と捉えるだけでは不十分です。

その発展は、大きく3つの段階に分けられます。

第一段階(2016〜2022年):シーケンシングのコスト構造を変える技術開発

半導体産業の知見をNGSに持ち込み、flow cell、chemistry、光学系、計算処理などを再設計する段階です。

第二段階(2022〜2024年):技術実証から製品化への移行

100ドルゲノムを掲げてステルス状態から登場し、Broad Instituteなどでの科学的検証を経て、UG 100を商用化する段階です。

第三段階(2025〜2026年):低コストNGS装置から、大規模マルチオミクス基盤への進化

Solaris、UG200、paired-end sequencing、高精度希少変異解析を発展させ、がん、創薬、大規模集団ゲノム、single-cell、proteomicsなどの市場に展開する段階です。

資本面では、2022年のステルス解除時点で累計約6億ドルの調達を公表し、2026年時点では累計7億ドル超としています。

出資者にはLightspeed Venture Partners、Khosla Ventures、Andreessen Horowitz、General Atlantic、Founders Fundなどが名を連ねます。[1][4]

1.1 創業から2026年までの年表

時期 主要な出来事 事業上の意味
2016〜2017年 Gilad Almogyらが創業。Lightspeedなどが初期投資 新しいシーケンスアーキテクチャの開発を開始
2018〜2021年 ステルス状態で装置、化学、ソフトウェアを開発 装置全体を垂直統合して技術リスクを低減
2022年 100ドルゲノムと累計約6億ドルの調達を発表 科学界と投資市場に本格登場
2023年 技術・経営人材を補強し、外部企業とのアプリケーション開発を推進 研究開発から商用化準備へ
2024年 UG 100を商用化。サービス提供拠点が登場 初期顧客を通じて実運用を検証
2025年 UG 100 Solarisを投入。グローバルなサービス提供網を拡大 スループット向上、コスト低減、顧客アクセス拡大
2026年 UG200シリーズ、Solaris 2.0、paired-end機能を展開 精度、柔軟性、適用領域を広げて次の成長段階へ

2026年10月には、paired-end sequencingとSolaris 2.0 Maxを発表し、60ドルゲノムを打ち出しています。

これは2022年の100ドルゲノム、2025年の80ドルゲノムに続く、同社のコスト低減戦略の延長線上にあります。[5][6]

ただし、事業としての成否を評価する際には、シーケンス試薬コストの低下、臨床利用に必要な性能、実際の顧客導入、収益性を分けて考える必要があります。

特に「60ドルゲノム」という数字は、臨床用の完成したWGS検査を60ドルで提供できるという意味ではありません。

2. なぜUltima Genomicsは設立されたのか

2.1 創業者はゲノム科学者ではなく、半導体・装置技術の専門家だった

Ultima Genomicsの創業者でCEOを務めるGilad Almogyは、カリフォルニア工科大学で応用物理学の博士号を取得しました。

1997年から2009年までApplied Materialsに勤務し、最終的にはSenior Vice Presidentを務めています。

その後、太陽エネルギー企業Cogenra Solarを創業し、同社は2015年にSunPowerに買収されました。

2016年、AlmogyはUltima Genomicsを設立しました。[7]

この経歴には重要な意味があります。

NGS技術の開発では、分子生物学、酵素工学、DNA化学などを起点に考えることが多いのに対し、Almogyのアプローチは、半導体製造における大面積基板処理、流体制御、光学検査、高度な自動化に近いものです。

その視点から見ると、従来型NGSには次のような課題がありました。

  • Flow cellの大きさや構造が、並列化できるDNA分子数を制約します。
  • 複雑な試薬送液システムが装置コストとランニングコストを押し上げます。
  • 蛍光標識ヌクレオチドや可逆的ターミネーターを使うSBS chemistryが、コストや反応速度の制約になります。
  • 画像取得、試薬交換、塩基伸長、base callingを個別に最適化しても、システム全体のコスト削減には限界があります。

Ultimaの着眼点は、これらを部分的に改善するのではなく、シーケンサーのアーキテクチャを、化学・流体・光学・計算を含めて再設計することでした。

2.2 既存NGSの改良ではなく、スケールの経済性を再設計する

Ultimaが採用した中核技術は、主に以下の3つです。

① Open fluidics / wafer-based sequencing

従来の密閉型flow cellとは異なり、大きな円形のwaferを回転させながら試薬を供給します。

半導体製造のspin coatingに類似した考え方です。

大面積を比較的効率よく処理でき、試薬の使用量、流体制御、画像取得を従来とは異なる形で最適化できます。

② Mostly natural sequencing-by-synthesis(mnSBS)

大部分に天然型のヌクレオチドを使用し、蛍光標識ヌクレオチドの割合を低くする化学方式です。

ヌクレオチドの取り込みを1塩基ずつ厳密に停止させる従来型SBSとは異なり、非終結型の伸長反応を利用します。

その反応から得られる光学信号を解析し、取り込まれた塩基を推定します。

③ Computational base calling

独自の化学方式から得られる信号を高精度な配列へ変換するため、アルゴリズムや機械学習も重要になります。

つまり、Ultimaの競争力は単独の酵素や試薬ではなく、装置・化学・画像取得・計算処理を一体最適化するシステム設計にあります。

このアプローチは、2022年にBroad InstituteとUltimaの研究者らが発表した論文でも具体的に説明されています。[2][3]

2.3 なぜ6年間もステルス状態だったのか

2016年の設立から2022年5月の公表まで、Ultimaはほぼ6年間、技術開発を続けました。

この期間の内部意思決定については公開情報が限られていますが、状況から次の理由が考えられます。

第一に、DNAシーケンサーは一般的なソフトウェア製品とは異なり、装置、化学、製造工程、解析ソフトウェアの開発が相互依存しています。

いずれか一つが機能しても商用品にはなりません。

第二に、既存NGSの顧客は単純な価格だけでは装置を変更しません。

既存ライブラリーとの互換性、塩基精度、データ解析、再現性などについて、相当な検証が必要です。

第三に、シーケンサー開発は資本集約的です。

研究開発だけでなく、装置の試作、製造設備、試薬供給、初期顧客での実証に多額の資金が必要になります。

そのため、外部に技術を公表する前に、大型の資本調達と主要研究機関での実証を並行して進めることには合理性がありました。

2022年の発表時点で、すでにBroad Instituteで200例以上のヒト全ゲノムデータが生成されていたことは、この戦略を示しています。[1]

ただし、ステルス期間中の開発上の失敗、技術方針の転換、資金繰り上の困難などについては、公開情報だけでは十分に再構成できません。

3. 技術・商品はどのように変わってきたのか

3.1 2022年:100ドルゲノムという技術的な宣言

2022年5月31日、Ultimaはステルス状態を解除し、新しいシーケンシングプラットフォームと「100ドルゲノム」の実現を発表しました。

この時点では、技術的な実証は進んでいたものの、一般顧客に広く販売される完成製品という段階ではありませんでした。

公表したデータには、WGS、scRNA-seq、がんエピジェネティクスなどが含まれ、最初から特定のゲノム解析用途に限定しない技術であることを示していました。[1][2]

3.2 2024年:UG 100の商用化

2024年2月、Ultimaは初の商用シーケンサーであるUG 100を投入しました。

UG 100は、wafer当たり60〜80億readsを生成し、30× WGSで100ドルゲノムを実現することを掲げました。

主なターゲットは、大量のサンプルを処理する大型研究施設です。

年間最大約2万例の30× WGSを処理できるとされ、従来型NGS装置に対して高いスループットと低いシーケンス単価を訴求しました。[8]

3.3 2025年:UG 100 Solarisへの進化

2025年2月には、UG 100 Solarisを商用投入しました。

これは単なる装置名の変更ではなく、chemistry、software、workflowを改善した製品です。

主要な改善点として、wafer当たりのreads数が60〜80億から100〜120億へ増加しました。

また、シーケンス単価は20%低下し、100ドルゲノムから80ドルゲノムへ進みました。

希少変異検出についても、SNVQ60 ppmSeqモードでの収量を5倍に改善し、2 ngのDNAから30× coverageを生成できると発表しました。

さらに、特定のshort-read用途向けに、1日当たり最大1,000億readsを生成するSolaris Boostモードのearly accessも発表しています。[6]

3.4 2026年:UG200シリーズとSolaris 2.0

2026年2月、Ultimaは第2世代プラットフォームであるUG200シリーズを発表しました。

UG200では、装置の小型化、処理速度向上、増幅方式の改良、運用の柔軟化などが進められています。

UG200はsingle-wafer、UG200 Ultraはdual-waferに対応します。

また、最大200億reads/waferの出力を掲げ、UG200 Ultraでは年間6万例超の30× WGS処理能力を目指しています。

2026年10月には、Solaris 2.0 Maxとpaired-end sequencingが商用投入され、60ドルゲノムが発表されました。[5][9]

主要製品の変遷をまとめると、以下のようになります。

指標 UG 100(2024年) UG 100 Solaris(2025年) UG200世代(2026年)
Reads / wafer 60〜80億 100〜120億 最大200億
30× WGSの公称コスト 100ドル 80ドル 60ドル
30× WGS年間最大処理量 約2万例 3万例超 6万例超(Ultra)
主な変化 初期商用化 Chemistry・software改良 装置・増幅・解析の再設計

これらは会社公表の仕様または試薬価格をベースとした指標です。

年間最大処理量は装置構成・稼働条件が異なり、臨床検査の総原価を示すものではありません。

また、60ドルという公称価格には、検体調製、設備償却、施設運営、データ保管、臨床検査の品質保証など、アッセイ全体で発生するすべての費用が含まれるわけではありません。

3.5 UG200で変わったのは、コストだけではない

UG200シリーズには、初代UG 100で生じた実務的な問題への対応が多数含まれています。

増幅法の改良

初代ではePCRに関連する工程や専用装置が必要でしたが、UG200では新しいisothermal amplification方式を採用しました。

これによりワークフローの簡素化だけでなく、GC-rich領域やゲノムの複雑な領域でのcoverage uniformity改善を目指しています。

柔軟な装置構成

UG200はsingle-wafer、UG200 Ultraはdual-waferに対応しています。

2026年2月の発表では、UG200シリーズの装置価格は85万ドルからとされました。初代の約150万ドルという報道価格に比べて、導入障壁を引き下げています。

Paired-end sequencingへの対応

2026年10月、UG200でpaired-end sequencingが商用投入されました。

これは単なる追加機能ではありません。

既存のWGS、構造変異解析、臨床解析パイプラインに対して、Ultima固有のデータ形式に合わせる負担を減らす重要な改良です。

装置の小型化・高速化

装置の設置面積、処理能力、稼働効率の改善も進められています。

これらは、実験室におけるtotal cost of ownership(TCO、総所有コスト)を引き下げるうえで重要です。

2026年の第2世代製品では、処理量の向上と同時に、実験室での運用しやすさが重視されています。[5][9]

この変遷からは、初期のUltimaが「究極的に低いシーケンス単価」を優先し、後続製品では「既存の研究・臨床ワークフローに適合すること」に比重を移してきたと読み取れます。

4. 注力分野はどう変わってきたのか

Ultimaの事業戦略を理解するうえで、特に興味深いのが注力アプリケーションの変遷です。

大きな流れとして、WGSを中心とした低コスト技術の実証から、シーケンスを大量に消費する多様なアプリケーションへと重点が広がっています。

4.1 初期:WGSでコスト優位性を証明する

2022年に「100ドルゲノム」を掲げた理由は明確です。

ヒトWGSは、NGSのスループットとコストを比較するための、分かりやすいベンチマークになります。

しかし、WGSだけでは必ずしも巨大な事業を確立できません。

大規模ゲノム解析では1サンプル当たりの費用が重要ですが、顧客側にはデータ処理、品質管理、検体調製といった別のコストも存在します。

そのため、Ultimaは早くからWGS以外への利用可能性を示していました。

4.2 Single-cell RNA-seq:初期の科学的検証で重要な役割

2022年9月にオンライン発表されたNature Biotechnologyの論文「Mostly natural sequencing-by-synthesis for scRNA-seq using Ultima sequencing」は、Ultimaの初期戦略を理解する重要な資料です。[2]

この研究では、Broad Instituteなどの研究者が、UltimaとIlluminaを用いて複数のscRNA-seqライブラリーを比較しました。

結果として、細胞分類、遺伝子発現、Perturb-Seqなどの代表的な解析では高い一致度が得られました。

一方で、3′ライブラリーでpoly(T)近傍の品質が低下する問題や、single-end読み取りに起因する制約も確認されました。

この論文が示したのは、UltimaがすべてのNGS用途で既存技術と同等だったということではありません。

むしろ、大量のread countingを行う用途では、比較的小さな技術上の制約を受け入れることで、大きなコスト優位を得られる可能性がある、ということです。

これは優れた初期市場選定だったと考えられます。

例えばsingle-cell expression profilingでは、read counting、UMI、細胞バーコードが主な関心であり、すべてのゲノム領域を高精度で再構成する必要はありません。

そのため、初期のUltimaでも高い価値を提供し得たのです。

4.3 2023〜2024年:がん・MRD領域への進出

次に重要になったのが、がん検査、とりわけmolecular residual disease(MRD、分子残存病変)です。

2023〜2024年には、以下のような連携が発表されています。

パートナー 時期 目的
Quest Diagnostics 2024年1月 Haystack MRD技術などへの利用可能性を検討
Labcorp 2024年7月、提携拡大 WGSベースのMRDやPlasma Detectとの組み合わせ
Genome Insight / Inocras 2023年以降 がん患者向けWGSの利用拡大

MRDでは、低頻度のcirculating tumor DNA(ctDNA)を背景DNAの中から識別しなければなりません。

例えば、変異アレル頻度が10^-6程度であれば、単に大量にシーケンスするだけでは不十分です。

PCRエラー、シーケンスエラー、DNA損傷などを識別し、極めて高いspecificityを維持する必要があります。

ここでUltimaは、低コスト大量シーケンスと高精度希少変異検出技術「ppmSeq」を組み合わせる方向へ進みます。

この戦略は、競合より安いreadを供給するという話から、従来は高すぎて実施しにくかった高感度検査を実現するという価値提案への移行と解釈できます。

2026年4月には、TRACERx関連のMRDデータがAACRで発表され、低い一桁ppmレベルのctDNA検出感度を示す初期結果が公表されました。

ただし、これをそのまま大規模前向き臨床試験で実証済みの性能とみなすことはできません。

4.4 2025年:Proteomicsという有力市場の獲得

2025年の事業展開で特に重要なのは、proteomicsです。

一見すると、DNAシーケンサーの企業がproteomicsに進出するのは不自然に見えます。

しかし、Olink ExploreのようなDNAバーコード型proteomicsでは、タンパク質の存在量をDNA配列の読み取りを通じて計測します。

ここでは、NGSは塩基変異を特定する装置というよりも、大量の分子バーコードを数える装置として使われます。

Ultimaにとって極めて親和性の高い用途です。

UK Biobank Pharma Proteomics Project

2025年、UltimaのUG 100が大規模proteomics研究のシーケンス基盤として選定されました。

対象規模は約60万検体です。

Olink Explore HTと組み合わせた利用であり、最大約5,300〜5,400種類のタンパク質を対象とする計画です。

UK Biobankの2025年年次報告書でも、Olink Explore HTとUG 100を組み合わせるプロジェクトが確認できます。

同報告書によると、2025年3月に約1万2,000検体のパイロットバッチがRegeneron Genetics Centerに提供され、6月にはデータがUK Biobankへ返却されました。

初期の品質評価後、本格的な検体提供が進められています。[10][11]

Regeneron Genetics Center

2025年6月には、Regeneron Genetics CenterとGeisingerの共同研究に由来する20万血清検体の大規模proteomics研究にもUG 100が選定されました。

UK Biobankの60万検体と合わせると、これらは極めて大規模なproteomics解析への採用事例となります。[12]

これらは単なる提携発表よりも強い市場シグナルです。

特にUK Biobankの公表資料でも採用が裏付けられていることは重要です。

Ultimaは「ヒトゲノムを安く読む装置」というポジションから、「超大規模な生物学的計測を支えるread生成基盤」というポジションを強めたと考えられます。

4.5 2026年:Population-scale multi-omicsとAI向けデータ生成

2026年には、その方向性がさらに明確になっています。

代表的なのが、Mayo ClinicとThermo Fisher Scientificが関与するPrecureのプロジェクトです。

2026年9月、UltimaはPrecureの約100万検体規模のmulti-omicsデータ生成にUG200 Ultraが選定されたと発表しました。

この構想は、WGS、proteomics、縦断的な臨床データを統合し、疾患の早期兆候や創薬に活用するものです。[13]

Mayo Clinic側はHelixをmulti-omics laboratoryおよびAIツール提供者として選定しており、Ultimaは大規模シーケンスの技術基盤として位置づけられています。

重要なのは、Ultima自身がすべてのアッセイ、臨床サービス、AI解析を提供しているわけではないことです。

同社は、既存の検査会社、研究機関、オミクス技術提供企業が利用できる、高スループットのデータ生成インフラを提供しようとしています。

4.6 注力領域の変遷を整理する

ここまでの変遷を概念的に整理すると、次のようになります。

時期 事業の重心 主な技術・アプリケーション
2016〜2022年 コア技術の開発 DNA sequencing architecture、100ドルゲノム
2022〜2024年 高スループット研究用途 WGS、scRNA-seq、epigenetics、MRD
2025〜2026年 大規模な分子計測基盤 Population genomics、proteomics、oncology、AI-ready multi-omics

各領域が入れ替わったという意味ではありません。

用途を追加しながら、事業の重心を拡大してきたと考えるのが適切です。

5. サービス提供モデルの変遷

製品だけでなく、顧客に技術を届ける方法にも変化があります。

段階 提供モデル 企業としての狙い
2022年以前 主要研究機関へのearly access 検証データと信頼性を獲得
2022〜2023年 限定的な装置利用・共同開発 アプリケーションと解析パイプラインを整備
2024年 商用UG 100装置販売 大規模シーケンシング施設に導入
2025年 Certified Service Provider網の拡大 装置を保有しない顧客にも普及
2025〜2026年 Technology Access Program、各種パートナー連携 社内装置群や外部サービスを使った導入障壁の低減
2026年 UG200シリーズと柔軟なwafer構成 より幅広い処理規模・設備条件に対応

2025年2月には、Broad Clinical Labs、Eurofins、Novogene、Psomagen、Ontario Institute of Cancer Researchなどを含むサービス提供パートナーを発表しました。

これらは既存のMacrogen、Inocras、University of Minnesota Genomics Centerなどのサービス提供パートナーに加わるものです。[14]

この変化には重要な背景があります。

高スループットシーケンサーは、装置の稼働率が低いとコスト優位を十分に発揮できません。

また、顧客が数百万ドル規模の設備を新たに導入するには、解析ソフトウェア、保守、人材教育、既存実験系からの移行も必要です。

そこで、サービス提供会社が装置を集中的に運用すれば、小規模・中規模の研究者でもUltimaの低単価シーケンシングを利用できるようになります。

さらに、サービス提供会社が装置稼働率を高められれば、Ultima側にはwaferや試薬などの継続的な消耗品需要が生まれます。

この意味で、同社の商業モデルは、装置の直接販売に加え、消耗品とサービス提供パートナーを通じた利用拡大を重視する方向へ発展してきたと考えられます。

6. 人的・組織的な変遷

公開情報で確認できる範囲では、Ultimaの組織は、研究開発中心の企業から、製造・品質・市場開拓・アプリケーション別の専門組織を持つ企業へと変化してきました。

6.1 創業期:物理・工学とゲノム科学の融合

創業者のGilad Almogyに加え、初期の科学的なリーダーとして重要なのが、当時Chief Scientific OfficerだったDoron Lipsonです。

2022年の技術発表やscRNA-seqに関する論文には、Lipson、Florian Oberstrass、Omer Baradらが登場しています。[2]

この時期の組織能力は、おおまかに次の組み合わせだったと考えられます。

  • 半導体・精密装置・物理工学
  • 分子生物学・シーケンシングchemistry
  • Bioinformatics・アルゴリズム
  • 大型装置と消耗品のエンジニアリング

2022年6月のイスラエル紙Globesの報道では、従業員は約350人で、うち50人がイスラエルに所属していたとされています。

イスラエルのRehovotとHod Hasharonにも開発拠点を有していました。[15]

創業から6年後の時点ですでに数百人規模であったことは、通常の初期バイオテック企業と比べても、ハードウェア・研究開発への投資が大きかったことを示唆します。

6.2 2023年:商用化を意識した人材の採用

2023年6月には、次の幹部採用が発表されました。[16]

Mirna Jarosz — Head of Product Strategy

Integrated DNA Technologies(IDT)のNGS事業を率いた経験を持ち、製品戦略、マーケティング、顧客アプリケーション、顧客導入などを担当する役割で参加しました。

Shlomey Derhi — Head of Architecture and Integration

イスラエル国防軍の大規模研究開発組織でのリーダー経験を持ち、技術開発とシステム統合を推進する役割で参加しました。

この2人の採用は象徴的です。

Jaroszは、研究者が技術的に優れた装置を開発するだけでは売れないという課題への対応です。

一方、Derhiは、大型の複雑な製品を安定して商用化するためのシステム統合能力を強化する人材と捉えられます。

6.3 2024年:製造・品質・営業の強化

2024年8月には、Chris SeipertとLara Toerienの採用が発表されました。

特にChris SeipertはPacBioで約14年間にわたり、製造、サービス、地域事業運営などの幹部職を経験しています。

UltimaではOperations部門を担当し、装置・消耗品生産、品質マネジメント、ISO認証に向けた取り組みを率いることになりました。[17]

これも重要な変化です。

大型装置メーカーの課題は、試作品が優れたデータを出すことではありません。

数十台、数百台と導入された後も、装置が再現性高く稼働し、消耗品が安定供給され、故障時にサービス対応できることです。

研究開発企業から精密機器メーカーへ変わるうえで、製造と品質の専門家が重要になります。

6.4 2025〜2026年:地域別・疾患領域別組織の整備

その後、2025年10月にはアジア地域の事業展開を担うJason Kangの任命、2026年2月にはoncology分野を強化するElena Helmanの登用が発表されました。

さらに2026年5月には、germline genomicsの専門家Francisco De La Vegaが加わっています。

2026年11月時点で公式サイトに掲載されている主なリーダーシップは、次のとおりです。[4]

氏名 役職 主な機能
Gilad Almogy Founder & CEO 全社戦略・経営
David Peoples Chief Financial & Business Officer 財務・事業
Toni Lin Chief Administrative Officer コーポレート運営
Chris Seipert SVP, Operations 製造・運営
Omer Barad SVP, Genomic Solutions ゲノムソリューション
Florian Oberstrass SVP, Technology Development 技術開発
Shlomey Derhi SVP, Engineering & Product Integration 製品統合
Francisco De La Vega VP, Germline Genomics Germline・WGS
Elena Helman VP, Oncology Solutions Oncology
Jason Kang GM, Asia アジア事業

この組織変化からは、2つの傾向が読み取れます。

ひとつは、最初からの技術開発能力を維持しつつ、製造、営業、地域運営の能力を追加したことです。

もうひとつは、germline、oncology、gene expressionなど、用途ごとの専門性を事業に組み込んでいることです。

一方で、幹部の採用履歴が分かることと、組織全体の人的変遷が分かることは別です。

従業員数の各年の推移、離職率、組織再編、初期幹部の退任理由などは、十分な一次資料を確認できませんでした。

したがって、特定の退任を経営上の失敗や対立と結び付けることは避けるべきです。

7. 資本的な変遷

7.1 初期資本:典型的な低資本スタートアップではなかった

Ultimaは創業初期から大型のベンチャー投資を集めています。

Lightspeed Venture Partnersの投資先情報では2016年のseed投資が確認でき、Playground Globalは2017年のSeries Aを共同主導したと説明しています。

その後も非公開で資金を確保し、2022年の公表時点では累計約6億ドルを調達済みでした。[1]

これは「2022年に一度に6億ドルを調達した」と理解するよりも、創業からステルス解除までの数年間に確保した累計資本と理解するのが適切です。

7.2 主な投資家

公表されている主な投資家は以下のとおりです。

投資家 位置づけ
Lightspeed Venture Partners 2016年からの初期投資家
Playground Global 2017年のSeries A共同主導投資家
Khosla Ventures ディープテック領域の投資家
Andreessen Horowitz 大型資金調達に参加
General Atlantic グロース投資家
Founders Fund 技術系企業への投資家
D1 Capital Partners 公表された投資家の一社
aMoon ライフサイエンス領域の投資家
Marius Nacht イスラエルの起業家・投資家

これらの投資家は、2022年の会社発表でも確認できます。[1]

この顔ぶれは、Ultimaが一般的な診断技術ベンチャーというよりも、半導体製造装置に近い資本集約型の技術プラットフォーム企業として評価されてきたことと整合的です。

7.3 2022年以降の資金調達状況

時点 公表・確認された資金情報 留意点
2016年 Seed投資 金額は十分に確認できず
2017年 Series A Playgroundなどが共同主導
2022年5月 累計約6億ドル ステルス解除時の公表
2026年11月時点 累計7億ドル超 公式サイトによる累計値

2022年から2026年までに、累計調達額が少なくとも約1億ドル以上増加したことになります。

ただし、その差額について、公開情報からは、各ラウンドの日付、投資家別金額、企業価値、資本と負債の内訳を正確に再構成できません。

各種スタートアップデータベースの情報にも差があり、約6億ドル、約6.14億ドル、7億ドル超と異なる数値が掲載されています。

これは更新頻度や集計対象の違いなどが考えられますが、原因を断定することはできません。[1][4]

7.4 資本効率についての評価

Ultimaを財務面から評価する際に、最も気になるのは、非常に高い初期投資に見合う収益が生まれているかどうかです。

しかし、同社は非上場企業であり、公開情報だけでは次のような指標を十分に把握できません。

  • 売上高、粗利益率、営業損益
  • UG 100 / UG200の累計設置台数
  • 1台当たりの年間wafer消費量
  • 装置売上と試薬売上の構成
  • 現預金とcash runway
  • 希薄化を伴う追加調達や負債調達の詳細

そのため、装置の技術的完成度や顧客採用の進展は評価できる一方で、現在のUltimaが財務的に成功していると判断するには情報が足りません。

また、一部のデータベースには企業価値の推計も掲載されていますが、確認できる確定的な資金調達時評価額とは区別する必要があります。

8. 直面してきた課題と、その克服方法

Ultimaの発展を「課題→対応→現在の評価」という観点で整理すると、技術・製品・事業にまたがる6つの重要なテーマが見えてきます。

8.1 課題①:既存NGSと異なるchemistryによる精度上の問題

UltimaのmnSBSは、主に天然型ヌクレオチドを使用する非終結型の反応方式です。

コスト・スループットには利点がありますが、従来のSBSとは異なるエラープロファイルを持ちます。

例えばhomopolymerでは、同じ塩基が何個連続して取り込まれたかの推定が難しくなり得ます。

また、2022年のscRNA-seq比較論文では、3′側のpoly(T)に関連するUMIの品質低下が報告されました。[2]

対応策

ライブラリーに応じた前処理やUMI trimming、base callingアルゴリズムの改善、増幅方法やchemistryの改良を進めてきました。

UG200ではcoverage uniformityの改善も強調されています。[9]

評価:大きく改善しましたが、用途別検証が引き続き必要です。

SNV、indel、SV、難読領域、GCバイアスなどを一つの精度指標で評価することはできません。

GIABなどの参照データを使った、Illuminaや他社装置との最新世代・同条件での比較が重要です。

8.2 課題②:Single-end方式と既存エコシステムとの非互換性

初代UG 100には、既存のIlluminaワークフローから移行する際の障壁がありました。

Cornell Universityのシーケンスサービス説明では、UG 100が本来single-end readを生成し、それをbioinformaticsでpaired-end形式に分割すること、標準的なIllumina型ライブラリーにはadapter変換のための追加PCR工程が必要であることが明記されています。

これは特にWGSや構造変異解析、既存の臨床パイプラインにとって大きな制約です。

対応策

2026年10月、UG200でpaired-end sequencingを商用化しました。

また、Solaris 2.0と関連するライブラリー調製ワークフローの改良を進めています。[5][9]

評価:重要な製品上の障壁を解消する方向に進みました。

ただし、paired-end対応が公表されたことと、既存のIlluminaベースのすべてのアッセイを変更なしに利用できることは異なります。

実際の移行コストや再検証の必要性はアプリケーションによって変わります。

8.3 課題③:大量処理能力を生かすには、巨大な需要が必要

1台当たり年間数万ゲノムという処理能力は、使い切れれば大きな強みです。

しかし、十分な検体を確保できない研究施設では、装置導入や運用の経済性が悪化します。

対応策

Ultimaは複数の方向からこの課題に対処してきました。

  • Certified Service Providerを通じた需要の集約
  • Single-cellやproteomicsなど、膨大なread数を必要とする市場への展開
  • UG200のsingle-wafer / dual-wafer構成による導入規模の柔軟化
  • 社内のTechnology Access Programによる装置購入前の利用機会の提供

評価:戦略として合理的であり、大型プロジェクトの獲得も進んでいます。

特にUK BiobankやRegeneronの大規模プロジェクトは、その有効性を裏付ける事例と考えられます。

ただし、全装置の平均稼働率までは公表されていません。

8.4 課題④:研究開発企業から製造業への転換

初期の技術開発を成功させても、製造歩留まり、消耗品のロット間品質、メンテナンス、保守対応が不十分であれば、NGSの基盤装置にはなれません。

対応策

2024年のChris Seipert採用に代表される製造・品質管理体制の強化、UG200での装置簡素化、自動化と省スペース化、ワークフローの標準化を進めてきました。[9][17]

評価:組織・製品の両面で対策を実行しています。

ただし、製造原価、歩留まり、フィールド故障率などを確認できないため、製造の成熟度を定量的に評価することはできません。

8.5 課題⑤:臨床市場における信頼性の獲得

NGSを臨床検査に使う場合、技術的な正確性だけでは不十分です。

アッセイ全体の分析性能、臨床的妥当性、品質マネジメント、規制・認証、報告システムなどが求められます。

対応策

Ultimaは自社で臨床検査事業全体を構築するのではなく、Quest Diagnostics、Labcorp、Broad Clinical Labsなど、すでに診断や臨床検査の能力を持つ企業・機関と連携してきました。

これにより、Ultimaはシーケンス基盤の改善に注力し、パートナーはアッセイ、検証、臨床提供を担当できる可能性があります。

評価:パートナーシップによる市場参入は進みましたが、臨床的な普及は別途検証が必要です。

特にMRDについては、検出限界が優れているだけでなく、偽陽性、経時的な再現性、実際の患者管理への有効性まで評価する必要があります。

8.6 課題⑥:Illuminaの巨大な既存顧客基盤と競争すること

Ultimaにとって最大の事業課題の一つは、既存のIlluminaエコシステムです。

Illuminaの競争力は装置性能だけではありません。

ライブラリー調製試薬、解析パイプライン、研究実績、臨床検証、施設内の運用ノウハウなど、非常に大きな蓄積があります。

また、Ultimaが低価格化を進める間、競合も製品や価格を改良してきました。

対応策

Ultimaの対応は、正面から全用途を置き換えるだけではなく、自社の強みが際立つ大量処理用途を先に獲得することだと考えられます。

これは、同社がWGSだけでなくsingle-cell、proteomics、MRDといった用途を拡大してきた経緯とも整合します。

評価:差別化された用途での採用実績が生まれていますが、既存エコシステム全体を置き換える段階に達したとはいえません。

9. 現時点で何を達成し、何が未解決なのか

ここまでの経緯を踏まえると、Ultimaの達成状況は以下のように整理できます。

評価項目 現在の評価
独自のシーケンスアーキテクチャの製品化 実現
公称60ドルゲノムの商用提供 発表・製品化
大規模研究プロジェクトへの採用 実績あり
既存NGSとの幅広い互換性 改善進行中
臨床用途での広範な普及 検証・拡大段階
収益性・継続的な資本効率 公開情報不足

この評価は、製品発表、外部研究機関による採用、論文、パートナー企業の発表から判断できる範囲のものです。

特に「実績あり」は、必ずしも契約額、納品量、収益規模が確認されたことを意味しません。

技術的な優位性、顧客による採用、収益性は、それぞれ独立して評価する必要があります。

10. Ultima Genomicsの経営戦略をどう評価するか

ここからは、公開事実を踏まえた分析です。

10.1 最も優れていたのは、技術戦略と市場戦略の整合性

Ultimaは、初期の技術がすべての用途で既存NGSを超えていなくても、事業化できる領域を選んできました。

例えば、single-cell expression profilingやDNAバーコード型proteomicsでは、非常に大量のreadを必要とする一方、すべてのreadに対してWGSと同じ変異検出精度を必要とするわけではありません。

そのような市場では、read単価の改善による恩恵が大きくなります。

一方、より高い精度や互換性が求められるgermline WGSや臨床用途には、ppmSeq、Solaris 2.0、paired-end、増幅方式の改良などを追加して対応してきました。

これは、技術の強みが生きる市場を先に獲得し、技術的な弱点を改良しながら適用範囲を広げるという成長パターンです。

10.2 研究機関との共同開発が、大きな競争資産になった

Broad Instituteなどとの初期共同研究は、単なる販促目的ではなかったと考えられます。

新方式のシーケンシングには、従来と異なるバイアスやエラープロファイルがあり、それに合わせた解析手法が必要です。

著名な研究機関でデータを作成し、論文を発表することには、技術的課題の発見、解析ソフトウェアの最適化、顧客の信頼形成という複数の価値があります。

その後のQuest、Labcorp、Regeneron、UK Biobank関連プロジェクトへの展開にも、この初期の検証実績が寄与した可能性があります。

ただし、個々の契約成立における因果関係までは公開情報から断定できません。

10.3 シーケンス技術を「分子計測インフラ」として位置づけ直している

これは今後の競争を考えるうえで特に重要です。

従来、NGS市場はDNAやRNAの塩基配列を読む市場と捉えられてきました。

しかし、近年の分子生物学では、タンパク質量、細胞ごとの発現、遺伝子摂動、空間的な分子情報などをDNAバーコードに変換して読む手法が拡大しています。

この場合、シーケンサーの用途は、厳密な意味でのDNA配列決定を超えていきます。

大量のDNAバーコードを安価に読み取れる装置は、多数のオミクスプラットフォームに利用できる可能性があります。

Ultimaは、そのような市場拡大を取り込める立場を目指しているように見えます。

10.4 最大のリスクは、技術開発そのものよりも商用化の経済性かもしれない

Ultimaの今後を評価するうえで、技術性能と同じくらい重要なのが装置の利用実態です。

年に数万ゲノムを読める装置があっても、顧客の実際のサンプル処理量が限られていれば、装置・消耗品の経済性は低下します。

また、シーケンス試薬を安く提供することと、Ultima自身が十分な利益を得ることは同義ではありません。

今後確認したいのは、累積設置台数だけではなく、稼働しているwaferの量、稼働率、顧客ごとのリピート利用、消耗品の利益率です。

これらが成長すれば、同社の技術的競争力が経営的な競争力に結び付いていると判断しやすくなります。

11. 今後を見極めるための重要な指標

今後のUltimaを継続的に評価するのであれば、特に以下の5つが重要です。

注目指標 確認したいこと なぜ重要か
UG200の商用導入 累計設置数、実運用拠点 製品需要の実態
Consumablesの利用量 Wafer消費量、継続利用 リカーリング収益の成長
Paired-end WGSの品質 SNV、indel、SV、難読領域の比較 既存市場への浸透可能性
大型研究案件の進捗 実際の検体処理数と継続契約 大規模市場での実証
資金調達・財務情報 追加調達、収益、キャッシュ消費 長期的な事業継続能力

特に、2026年に投入されたUG200とSolaris 2.0 Maxが、2027年以降の顧客稼働データによってどのように評価されるかは、重要な分岐点になるでしょう。

また、技術的な評価を深める場合には、UG200世代のGIAB benchmarking、DeepVariantやpangenome-aware解析との組み合わせ、ppmSeqのエラー抑制原理と検出限界の検証を優先する価値があります。

12. 結論:Ultima Genomicsの約10年間から見えるもの

Ultima Genomicsの約10年間は、次のように要約できると考えます。

第一段階では、半導体・精密装置技術をゲノミクスに持ち込み、従来とは異なる低コストシーケンシング方式を開発しました。

創業者のGilad Almogyは、半導体装置産業で培った大規模処理、システム統合、自動化の知見をDNAシーケンシングに応用しました。

約6年間のステルス開発と大型資本調達を経て、open fluidicsとmnSBSを組み合わせた独自の技術基盤を構築しました。

第二段階では、著名な研究機関との共同検証と大型資本調達を背景に、研究開発成果をUG 100という商用製品へと転換しました。

Broad Instituteなどによる初期検証は、技術の信頼性を示すと同時に、課題の発見やアプリケーション開発にもつながりました。

2024年のUG 100商用化によって、研究開発企業から実際のシーケンシング装置メーカーへと移行しました。

第三段階では、装置・chemistry・解析手法の課題を改良しながら、がん、single-cell、proteomics、大規模WGSなどの市場に入り込み、UG200という第2世代の製品群を投入しました。

その過程では、コスト削減だけでなく、paired-end sequencingへの対応、増幅工程の簡素化、装置の小型化、顧客の利用規模に応じた柔軟性などを改善してきました。

同社が特に優れていた点は、最初からすべてのアプリケーションで勝とうとせず、低コスト・超高スループットという自社の強みを生かせる用途から市場を広げたことだと考えます。

一方で、現在の公開情報からは、研究・製品開発上の成功については相当の証拠が確認できますが、利益を生む事業モデルとして確立できたかどうかは判断できません。

最終的にUltimaがゲノミクス産業を変える企業になるかは、「60ドルでゲノムを読める」という性能そのものよりも、大規模オミクス市場において、顧客が継続的に使い続ける標準的なプラットフォームになれるかどうかにかかっていると考えます。

参考文献

[1] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Delivers the $100 Genome. Emerges from Stealth with $600 Million in Funding,” 2022年5月31日. https://www.ultimagenomics.com/blog/ultima-genomics-delivers-the-usd100-genome/

[2] Simmons, S. K., Lithwick-Yanai, G., Adiconis, X., et al., “Mostly natural sequencing-by-synthesis for scRNA-seq using Ultima sequencing,” Nature Biotechnology, 41, 204–211, 2023年(オンライン公開:2022年9月15日). https://doi.org/10.1038/s41587-022-01452-6

[3] Almogy, G., et al., “Cost-efficient whole genome-sequencing using novel mostly natural sequencing-by-synthesis chemistry and open fluidics platform,” bioRxiv, 2022年. https://doi.org/10.1101/2022.05.29.493900

[4] Ultima Genomics, “About Us,” 企業公式サイト(2026年11月3日時点). https://www.ultimagenomics.com/about-us/

[5] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Launches Paired-End Sequencing and Solaris 2.0 Max at ASHG 2026, Doubling Output and Enabling the $60 Genome,” PR Newswire, 2026年10月20日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-launches-paired-end-sequencing-and-solaris-2-0-max-at-ashg-2026--doubling-output-and-enabling-the-60-genome-302914208.html

[6] Ultima Genomics, “Ultima Genomics increases output by over 50% and lowers sequencing costs by a further 20% with the introduction of UG 100 Solaris,” PR Newswire, 2025年2月24日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-increases-output-by-over-50-and-lowers-sequencing-costs-by-a-further-20-with-the-introduction-of-ug-100-solaris-302382977.html

[7] SolarEdge Technologies, “Gilad Almogy,” Board Member Biography. https://investors.solaredge.com/board-member-committee-member/gilad-almogy

[8] Bio-IT World, “Ultima's Silicon Wafer Sequencing Launches on $100 Genome, Part Per Million Accuracy,” 2024年2月27日. https://www.bio-itworld.com/news/2024/02/27/ultima-s-silicon-wafer-sequencing-launches-on-100-genome-part-per-million-accuracy

[9] Ultima Genomics, “UG200 Series: Ultra High-Throughput Sequencing Platform,” 製品公式サイト. https://www.ultimagenomics.com/products/ug200-series/

[10] UK Biobank, “Launch of world's most significant protein study set to usher in new understanding for medicine,” 2025年1月10日. https://www.ukbiobank.ac.uk/news/launch-of-worlds-most-significant-protein-study-set-to-usher-in-new-understanding-for-medicine/

[11] UK Biobank Limited, Report and Financial Statements 2025, 2025年. https://www.ukbiobank.ac.uk/wp-content/uploads/2026/01/UK-Biobank-annual-report-2025.pdf

[12] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Selected to Support the World's Largest Proteomics Studies to Date Led by Regeneron Genetics Center,” PR Newswire, 2025年6月26日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-selected-to-support-the-worlds-largest-proteomics-studies-to-date-led-by-regeneron-genetics-center-302492524.html

[13] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Selected to Generate One Million-Sample, World-Leading Multi-omic Biomedical Dataset for AI/ML Precure, LLC Initiative,” PR Newswire, 2026年9月22日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-selected-to-generate-one-million-sample-world-leading-multi-omic-biomedical-dataset-for-aiml-precure-llc-initiative-302885572.html

[14] Ultima Genomics, “Ultima Genomics expands global access to high-quality, low-cost DNA sequencing on the UG 100 sequencing platform through partnerships with multiple premier genomic services providers,” PR Newswire, 2025年2月25日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-expands-global-access-to-high-quality-low-cost-dna-sequencing-on-the-ug-100-sequencing-platform-through-partnerships-with-multiple-premier-genomic-services-providers-302384224.html

[15] Weinreb, G., “Genome sequencing co Ultima Genomics raises $600m,” Globes, 2022年6月2日. https://en.globes.co.il/en/article-genome-sequencing-co-ultima-genomics-raises-600m-1001414037

[16] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Adds Tenured Strategic and Technology Leadership In Preparation for Commercial Launch,” PR Newswire, 2023年6月26日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-adds-tenured-strategic-and-technology-leadership-in-preparation-for-commercial-launch-301861344.html

[17] Ultima Genomics, “Ultima Genomics adds tenured leadership to drive operational excellence and commercial adoption,” PR Newswire, 2024年8月13日. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-adds-tenured-leadership-to-drive-operational-excellence-and-commercial-adoption-302220980.html

[18] Ultima Genomics, “Ultima Genomics Introduces the Next Generation of Sequencing at Scale with the Launch of the UG200 Series and Next Generation Solaris 2.0 Workflows,” PR Newswire, 2026年2月. https://www.prnewswire.com/news-releases/ultima-genomics-introduces-the-next-generation-of-sequencing-at-scale-with-the-launch-of-the-ug200-series-and-next-generation-solaris-2-0-workflows-delivering-higher-output-better-performance-and-more-flexible-wafer-configuratio-302694374.html