対象読者

  • Open Society Foundations(OSF)の設立経緯、理念、歴史について体系的に理解したい方です。
  • 国際的な慈善財団、NGO、市民社会、民主主義、人権支援の仕組みに関心のある方です。
  • OSFの現在の活動、資金配分、組織改革、政治的な課題について知りたい方です。

要約

  • Open Society Foundations(OSF)は、ジョージ・ソロスが1979年に始めた慈善活動を原点とし、民主主義、人権、公正、社会的包摂を支援する国際的な財団ネットワークへ発展しました。
  • OSFの特徴は、単に資金を寄付するだけでなく、助成金、政策提言、戦略的訴訟、研究・教育、社会的投資を組み合わせ、社会制度そのものの改善を目指す点にあります。
  • 創設者からの累計拠出額は320億ドルを超え、2024年の年間支出は約12億ドルに達しています。
  • 2023年以降はアレックス・ソロスを中心とする新体制へ移行し、大規模な組織再編を経て、より重点的で長期的な支援モデルへの転換を進めています。
  • 2026年現在、各国政府との政治的・法的摩擦、組織再編による地域支援への影響、民間資金による政策関与の正当性、支援先の持続可能性などが重要な課題となっています。

1. Open Society Foundationsとは何か

Open Society Foundations(オープン・ソサエティ財団、以下OSF)は、米国の投資家・慈善家であるジョージ・ソロス(George Soros)が創設した、民主主義、人権、公正、社会的包摂を支援する国際的な民間財団ネットワークです。

1979年の奨学金支援を原点とし、1984年のハンガリーにおける財団設立を経て、世界各地で市民社会を支援する大規模な慈善組織へ発展しました。[1][2]

OSFは、政府機関でも国連のような国際機関でもありません。民間資金を活用し、公共政策や社会のあり方に働きかける独立した慈善組織です。

OSFを理解するための5つのポイント

OSFの活動を理解するうえで、特に重要な特徴は次の5つです。

  1. 設立の理念は「開かれた社会」です。 哲学者カール・ポパーの思想に影響され、権力の集中を抑制し、多様な意見と個人の権利が尊重される社会を目指しています。
  2. 単なる寄付財団ではありません。 NGOへの助成に加え、政策提言、調査研究、戦略的訴訟、社会的インパクト投資などを組み合わせ、社会制度そのものの変化を働きかけます。
  3. 世界的な資金力を持っています。 創設者からの累計拠出額は320億ドルを超え、2024年の年間支出は約12億ドルでした。
  4. 2023~2025年に大規模な組織改革を実施しました。 創設者から息子のアレックス・ソロスへガバナンスの中心が移行し、世界各地の拠点・人員を削減して、より重点的かつ機動的に支援するモデルへ転換しています。
  5. 政治的な圧力と支援戦略の再構築に直面しています。 各国での市民社会に対する規制、政治的対立、助成先の資金不足、組織改革による地域ネットワークへの影響などが課題となっています。[3][4][5]

OSFの基本情報

項目 内容
正式名称 Open Society Foundations(OSF)
起源 1979年の慈善活動、1984年のハンガリー財団
創設者 George Soros(ジョージ・ソロス)
現在の理事会議長 Alex Soros(アレックス・ソロス)
現在の財団プレジデント Binaifer Nowrojee(ビナイファー・ナウロジー)
活動地域 アフリカ、アジア太平洋、欧州・中央アジア、中南米、中東・北アフリカ、米国
主な支援対象 NGO、市民社会団体、研究機関、教育機関、活動家、公益団体など
組織形態 複数の財団・関連組織による国際ネットワーク

出典:OSF公式資料。[2][6]

OSFの資金規模

OSFは世界有数の規模を持つ民間慈善財団ネットワークです。

指標 金額
創設者からの累計拠出額 320億ドル超
累計支出額 242億ドル
2024年の年間支出額 約12億ドル

これらの数値はOSFの公式資料に基づいています。[2][7]

なお、累計拠出額、累計支出額、年間支出額はそれぞれ定義が異なるため、同一指標として単純に比較することはできません。

2. OSFの設立から現在までの歴史

OSFの歴史は、大きく4つの時代に区分できます。

第1期:1979~1989年 — 冷戦下の自由化支援と財団ネットワークの誕生

OSFの原点は、1979年にジョージ・ソロスが始めた慈善活動です。

ソロスは、南アフリカの黒人学生や東欧の反体制知識人などに対する奨学金支援を開始しました。

当時の東欧は冷戦下にあり、多くの国が共産党による一党支配体制に置かれていました。

こうした社会では、自由な情報へのアクセス、独立した研究、学問の自由などが制限されていました。

1984年、ソロスは共産党一党支配下のハンガリーに財団を設立しました。

この財団では、独立した情報流通、教育、研究などを支援しました。

特に、自由な知的活動を支援することが、閉鎖的な社会を変化させる重要な手段だと考えられていました。[1]

第2期:1990~2000年代 — 東欧民主化支援から世界的な人権活動へ

1989年以降、東欧の共産主義体制が相次いで崩壊し、1991年にはソ連が解体しました。

これに伴い、OSFの活動は、権威主義的な体制下での自由化支援から、民主主義や市民社会を制度として定着させるための支援へと拡大しました。

代表的な取り組みが、1991年に開学した中央ヨーロッパ大学(Central European University、CEU)です。

CEUは、教育や研究を通じて、開かれた社会を支える知識人や専門家を育成することを目的としていました。

また、OSFは旧ソ連地域の科学研究支援、幼児教育支援、ロマの人々の権利保護、司法改革、公衆衛生などにも活動を広げました。

さらに、アフリカなどにも地域財団を設立し、国際的なネットワークを拡大していきました。[1]

第3期:2010~2022年 — 民主主義の後退と各国政府との摩擦

2010年代以降、OSFは汚職防止、難民・移民の権利、人種差別、司法の独立、報道の自由などに関する支援を継続しました。

その一方で、各国政府との対立も深まりました。

代表例がハンガリーです。

ハンガリー政府は、外国から資金を受け取る市民社会組織や移民支援活動に対する規制を強化しました。

OSFはこうした法的・政治的制約を受け、2018年にブダペストの地域統括機能をベルリンへ移転しました。[8]

この出来事は、OSFの活動が、各国の政治制度や政府の方針と衝突する可能性を示す象徴的な事例となりました。

第4期:2023年~現在 — 世代交代と戦略的な組織再編

2023年以降、OSFは大きな転換期を迎えました。

ジョージ・ソロスから息子のアレックス・ソロスへ、組織のガバナンスの中心が移行しました。

同時に、大規模な組織再編が進められました。

この改革では、世界各地の拠点や人員を削減し、従来の広範な地域支援モデルから、重点課題への集中と、長期的で柔軟な資金供給を重視する方向へ転換しました。

2024年にはBinaifer Nowrojeeがプレジデントに就任しました。

2025年には、新しい運営モデルへの移行が完了したと説明されています。[4][9]

主な出来事の年表

年 主な出来事 歴史的意味
1979年 南アフリカなどで奨学金支援開始 慈善活動の原点
1984年 ハンガリーにソロス財団設立 組織的活動の本格化
1989年 東欧・旧ソ連地域の活動を拡大 冷戦終結期の民主化支援
1991年 中央ヨーロッパ大学(CEU)開学 教育を通じた長期的な社会変革
1993年 旧ソ連の科学研究支援、幼児教育支援 民主化支援から社会制度支援への拡張
1996年 米国プログラムの正式設立 米国内の人権・司法課題への進出
1997年 南部アフリカの地域財団設立 グローバルな地域ネットワークの拡大
2000年代 薬物政策、公衆衛生、国際司法などを支援 テーマ別の専門性が深化
2018年 ハンガリーからベルリンへ地域拠点移転 政治・法制度による活動制約が顕在化
2023年 大規模な組織再編・人員削減 運営モデルの転換
2024年 Binaifer Nowrojeeがプレジデント就任 新体制への移行
2025年 新たな運営モデルへの移行完了を説明 重点分野と資金供給方法の見直し

出典:OSF公式沿革、Devexによる2025年4月の経営陣インタビュー。[1][4][9]

3. OSFの設立理念「開かれた社会」とは何か

OSFの名称は、哲学者カール・ポパー(Karl Popper)の著書『開かれた社会とその敵』(The Open Society and Its Enemies)に由来します。

ポパーの思想では、誰も絶対的な真理を独占することはできず、批判や議論を許容し、権力の誤りを修正できる社会が重要だと考えられています。

ジョージ・ソロスはこの思想に影響を受け、自身の財産を活用して社会制度や市民社会を支援する活動へと発展させました。[10]

「開かれた社会」が意味するもの

OSFが掲げる「開かれた社会」とは、単に情報が公開されている社会という意味ではありません。

以下のような特徴を持つ社会を意味しています。

  • 民主的な統治が機能している社会です。
  • 権力に対する批判や監視が認められる社会です。
  • 個人の自由や権利が尊重される社会です。
  • 少数者や社会的に弱い立場の人々が保護される社会です。
  • 多様な価値観や意見が共存できる社会です。
  • 市民が政治や社会の意思決定に参加できる社会です。

この理念は、OSFの活動全体を支える思想的な基盤となっています。

4. Open Society Foundationsの5つの特徴

OSFは、一般的な慈善財団と共通する側面を持ちながら、いくつかの特徴的な活動方法を採用しています。

特徴1:政治・社会制度の変革を重視する

一般的な慈善財団では、教育、医療、貧困対策などのサービス提供を中心に支援する場合があります。

これに対し、OSFは社会問題を生み出す法律、政策、制度、権力構造そのものの変革も重視しています。

例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 司法制度の透明性向上
  • 少数者に対する差別的な法律の見直し
  • 独立したメディアへの支援
  • 市民が政策決定に参加する仕組みの整備
  • 政府による権力行使を監視する組織への支援

つまり、OSFは社会問題の症状だけでなく、その原因となる制度にも働きかけることを重視しています。

特徴2:助成金と複数の手法を組み合わせる

OSFは、助成金を提供するだけでなく、さまざまな手法を組み合わせて活動しています。[11]

手法 内容
助成金(Grantmaking) NGOや市民団体への事業費・運営費支援
政策提言(Advocacy) 政府・国際機関への政策的な働きかけ
戦略的訴訟(Litigation) 裁判を通じた権利保護と法制度改善
社会的投資(Impact Investing) 社会的成果を目的とする企業・事業への投資
研究・教育 研究者、大学、知識人、独立した議論の支援

例えば、人権問題に取り組む場合、現地の人権団体に資金を提供するだけでなく、法律の改善を求める政策提言や、裁判を通じた権利保護などを組み合わせることがあります。

このような複合的な手法は、OSFの特徴の一つです。

特徴3:現地の組織を通じて社会に働きかける

OSFは、活動する地域の事情に詳しい現地のNGOや市民社会組織を重視しています。

具体的には、次のような組織や人々が活動の担い手となります。

  • 現地の人権団体
  • 独立系報道機関
  • 教育関係者
  • 法律家
  • 市民活動家
  • 地域の公益団体

2023年の助成実績では、100か国以上の受益組織・個人が含まれ、2,350件以上の助成が行われました。[12]

なお、OSFによると、助成先の大半は財団側から直接アプローチする方式で選ばれています。

したがって、一般公募だけで支援先が決まるわけではありません。

特徴4:政治的な議論を呼ぶ分野にも関与する

OSFは、市民的自由、移民・難民の権利、LGBTQの権利、薬物政策改革、刑事司法改革など、社会的・政治的な意見が分かれる分野にも関与してきました。

こうした支援は、権利保護の観点から支持される一方、国によっては国外の資金による国内政策への影響力行使として批判されることもあります。

OSFは、政治的に無色透明な組織ではありません。

民主主義、人権、公正について明確な理念を掲げ、その実現のために政策過程にも関与する財団です。[6][13]

ただし、個々の助成先が行う活動と、OSF自身の意思決定を同一視することはできません。

特徴5:巨大な資金力と機動的な助成モデル

OSFの資金力は、その活動を特徴づける重要な要素です。

一方で、社会的インパクトの大きさを支出額だけで測ることはできません。

また、OSFは多くの支援先に対し、組織予算の3分の1を超えない範囲で助成する方針を説明しています。[14]

これは、支援先がOSFだけに依存せず、組織としての自立性を維持することを目的としています。

5. OSFの現在の重点活動分野

OSFの公式サイトでは、現在の世界的な活動を4つの分野に整理しています。[3]

重点分野1:Democratic Practice — 民主的な政治・社会運営

この分野では、民主主義が適切に機能するための制度や市民社会の活動を支援しています。

具体的なテーマには、次のようなものがあります。

  • 選挙と市民参加
  • 独立したメディア
  • 表現の自由
  • 権力監視
  • 民主的な説明責任

政府の権力を監視し、市民が政治や社会の意思決定に参加できる環境を整えることが中心的なテーマです。

重点分野2:Rights and Dignity — 人権と人間の尊厳

この分野では、個人の権利と人間の尊厳を守るための活動を支援しています。

具体的には、次のような課題を扱っています。

  • 人種・民族・宗教等による差別への対処
  • 移民・難民の保護
  • 司法へのアクセス
  • 個人の自由
  • 人間の尊厳の保護

社会的に弱い立場にある人々の権利を守ることが重要なテーマです。

重点分野3:Equity in Governance — 公正な統治

この分野では、政治制度だけでなく、経済制度や資源配分の公平性も重視しています。

具体的には、次のような課題が含まれます。

  • 経済的不平等
  • 資源配分の偏り
  • 国際的な権力格差
  • 社会的排除
  • 経済政策と民主主義の関係

経済的な格差が政治参加や民主主義に与える影響を考え、公平な社会制度の構築を支援しています。

重点分野4:Future Worlds — 未来社会

この分野では、将来の社会構造に影響を与える変化を踏まえ、より持続可能な社会のあり方を探っています。

主なテーマは次のとおりです。

  • 気候変動
  • 技術革新
  • 人口構造の変化
  • 経済の変化
  • 将来の社会制度
  • 持続可能な経済

従来の人権や民主主義の支援だけでなく、未来の社会制度を形づくる課題にも関心を広げています。

2025~2026年に注目される具体的な取り組み

OSFの4つの重点分野は、抽象的に見える部分もあります。

しかし、直近の発表や資金配分方針を見ると、重点の方向性がより具体的に理解できます。

発表時期 取り組み 規模・内容
2025年4月 アフリカの重要鉱物と開発 8,000万ドル規模の取り組みがDevexで紹介されました。資源開発の利益を、より公平な経済発展につなげることがテーマです。
2026年5月13日 反ユダヤ主義・反ムスリム憎悪への対処 3年間で3,000万ドルを拠出する計画です。
2026年5月20日 米国の経済的安定と市民的自由 3億ドルの新規イニシアチブを発表しました。
2026年8月 国際刑事司法 国際刑事裁判所関係者への米国の制裁に対する法的異議申立てに参加しました。

出典:OSF公式発表、Devex、関連報道。[4][15][16][17]

特に注目されるのは、民主主義を守るためには、言論や選挙制度だけでなく、経済的な不平等にも取り組む必要があるという考え方です。

近年のOSFの戦略では、この考え方が強まっています。

AP通信が2025年9月に報じたOSF幹部の説明でも、不平等が民主主義を損なう重要な要因として位置づけられています。[18]

6. 資金配分から見るOSFの活動地域

OSFの活動は世界各地に広がっていますが、資金がすべての地域に均等に配分されているわけではありません。

2024年の地域別支出を見ると、その特徴が明確になります。

2024年の地域別支出

地域 支出額(百万米ドル)
全世界対象(Global) 631.9
米国 242.0
中南米・カリブ 117.1
欧州・中央アジア 83.7
アフリカ 69.9
アジア太平洋 26.0
中東・北アフリカ 19.4

出典:OSF公式財務データ。[7]

なお、「全世界対象」は、地域別支出の合計ではなく、独立した全世界対象カテゴリーです。

地域別支出から読み取れること

まず、「全世界対象」が約6.32億ドルと、年間支出の半分を超えています。

これは、特定の地域に割り振られない国際的活動や支援を含むカテゴリーです。

また、地域別の支出としては、米国が大きな割合を占めています。

一方で、アジア太平洋地域に計上された支出は2,600万ドルと相対的に小さくなっています。

ただし、これらは2024年の支出配分であり、2026年の予算や各地域の優先順位を直接示すものではありません。

7. OSFが現在直面している5つの課題

OSFの課題は、外部の政治・社会環境に起因するものと、財団内部の組織運営に起因するものに分けられます。

課題1:各国政府との政治的・法的摩擦

OSFは、政治制度、人権、司法、報道の自由などに関与するため、活動先の政府と対立することがあります。

代表例が、2018年のハンガリーにおける地域統括拠点の移転です。

ハンガリー政府による法的制限を受け、OSFは地域統括拠点をブダペストからベルリンへ移しました。[8]

2026年には、ケニアでOSF幹部の入国が拒否され、財団は法の支配に関する懸念を表明しています。[17]

米国でも緊張が高まっています。

2025年9月、ABC Newsは、米司法省幹部が複数の連邦検察当局にOSFの捜査準備を指示したと報じました。

これに対してOSFは、政治的動機による動きだと反論しました。[19][20]

ここでは、捜査準備に関する報道と、違法行為が立証されたことは明確に区別する必要があります。

この課題は、単なる評判リスクにとどまりません。

活動許可、助成金の送金、現地パートナーの安全、司法上の争いなど、実務にも影響し得ます。

課題2:大規模な組織再編による現地支援力への影響

OSFでは、2021年から始まった組織再編が、2023年の大幅な人員削減を経て、2025年には新しい運営モデルへの移行が完了したと説明されています。

2025年4月のDevexの取材で、OSFプレジデントは改革前後の組織規模について説明しています。[4]

指標 改革前 改革後
人員規模 約2,000人 約500人
世界の拠点数 約40拠点 13拠点

これらは2025年4月の取材で説明された概数であり、2026年現在の最新人員数を示すものではありません。

OSF経営陣は、この改革について、組織の機動性を高め、資金をより柔軟かつ長期的に配分するためのものだと説明しています。

一方で、AP通信や慈善分野の専門メディアは、欧州や公衆衛生などの既存プログラムの縮小によって、長年OSFの支援を受けてきた団体の一部が、資金調達や活動継続に不安を抱いたと報じています。[21][22]

今後の重要な論点は、規模を小さくした組織で、以前と同等またはそれ以上の地域理解と社会的成果を維持できるかということです。

課題3:巨額の民間資金による公共政策への影響力

OSFのような財団は、多数の市民組織を支えることができます。

しかし、その資金をどの団体に、どの目的で配分するかは、社会的な影響を持つ判断でもあります。

この点については、異なる見方があります。

観点 主な論点
OSFおよび支持する側 政府や市場から独立した市民社会を支援することは、民主的な権力監視や少数者の権利保護に役立つと考えています。
批判的な立場 巨額の私的資産を持つ財団が、選挙で選ばれたわけではないにもかかわらず、公共政策や社会的価値観に強い影響を及ぼし得ると指摘しています。
組織運営上の論点 助成対象の選定基準、資金の透明性、利益相反、社会的成果の検証をどこまで明確にできるかが問われます。

ここで問われているのは、財団による政策提言自体の是非だけではありません。

民間の公益資金が、民主的な意思決定とどのような関係を持つべきかという、より広いガバナンス上の問題です。

課題4:支援先の資金依存と活動継続

OSFは、多くの団体に長期的な資金を供給してきました。

そのため、OSFが助成分野や地域を変更すると、支援先の活動に大きな影響が生じる可能性があります。

2023年の欧州事業縮小を巡っては、既存の助成先から、資金供給の見通しや戦略変更に関する説明が十分ではないとの懸念が示されました。[21]

この問題への対処として、2025年の新戦略では、より長期的で柔軟な助成方式を重視しています。[4]

ただし、それによって支援先の安定性がどの程度改善したかについては、継続的な検証が必要です。

課題5:民主主義、人権、経済、技術の問題が複雑化している

設立当初のOSFには、冷戦下の情報統制や政治的自由の制限という、比較的明確な課題がありました。

しかし現在は、さまざまな社会問題が相互に関連しています。

例えば、次のような問題です。

  • 情報操作
  • 経済格差
  • 移民問題
  • 気候変動
  • AIなどの技術変化
  • 国家間の対立

これらは、単独の問題として解決できるとは限りません。

例えば、表現の自由を守る活動と、オンライン上の差別や虚偽情報への対応は、場合によっては緊張関係にあります。

OSFにとっては、個々の問題に資金を提供するだけでなく、異なる権利や社会的利益の調整を支えることが求められる状況です。

8. OSFの今後の方向性と展望

2025~2026年に確認できる活動と経営方針から、今後のOSFを理解するための論点を整理します。

戦略の変化と今後の注目点

分析テーマ 確認できる方向性 今後の注目点
戦略 より少数の重点領域に集中しています。 支援の集中が成果につながるかが注目されます。
資金供給 長期的・柔軟な助成を重視しています。 助成先の安定性が改善するかが注目されます。
経済分野 経済格差と民主主義を関連づけています。 経済的公正への投資が拡大するかが注目されます。
地域活動 世界的な支援網を維持しつつ拠点を削減しています。 現地パートナーとの関係を維持できるかが注目されます。
組織統治 アレックス・ソロスを中心とする世代交代が進んでいます。 家族の影響力と組織の独立した意思決定の関係が注目されます。
政治・法的環境 各国で活動制約や政治的な対立が発生しています。 法的リスクと市民社会支援を両立できるかが注目されます。

これらは現時点の事実を踏まえた分析論点であり、将来の成果を確定的に予測するものではありません。

「民主主義」と「経済的不平等」の関係を重視する方向へ

OSFの最近の活動で注目されるのは、民主主義と経済的不平等の関係を重視している点です。

政治的な自由が制度として保障されていても、経済的な格差が大きければ、実際に政治参加できる人々の間に差が生じる可能性があります。

OSFは、こうした問題を民主主義の持続可能性に関わる課題として捉えています。

2026年5月に発表された米国向けの3億ドルの新規イニシアチブでも、経済的安定と市民的自由が結びつけられています。[16]

この方向性は、OSFが政治制度だけでなく、それを支える経済的・社会的条件にも関心を広げていることを示しています。

組織再編後の成果が重要になる

もう一つの注目点は、組織再編後の成果です。

OSFは、世界の拠点数や人員を大幅に削減しました。

その一方で、より重点的で長期的な資金供給を重視する方針を示しています。

今後は、組織を小規模化したことによって意思決定が迅速になったか、現地社会との関係を維持できたか、支援先の持続可能性が改善したかなどが重要な評価項目になります。

9. OSFの歴史と現在の姿から考えられること

OSFの歴史を振り返ると、その活動目的は時代とともに変化してきました。

大きく分けると、次の3段階として理解できます。

第1段階:1979~1989年 — 閉鎖的な社会を開く

この時代の中心的な活動は、奨学金、教育、情報へのアクセスなどを通じて、政治的・知的自由の拡大を支援することでした。

冷戦下の東欧など、自由な活動が制限されていた社会が主な対象でした。

第2段階:1990~2022年 — 開かれた社会を制度として定着させる

冷戦終結後は、民主主義を制度として定着させるための支援へと活動が広がりました。

市民社会、司法、人権、教育、公衆衛生など、幅広い社会制度の改善が重視されました。

この時期に、OSFは世界的な財団ネットワークへと発展しました。

第3段階:2023年~現在 — 開かれた社会を持続可能なものにする

現在のOSFは、民主主義や人権の保護に加え、それらを持続可能にするための経済的・社会的条件にも関心を広げています。

また、組織の機動性と資金配分の効率性を高めるため、大規模な組織再編も進めました。

OSFはどのような組織へ発展してきたのか

これらの変化から、OSFは単なる民主化支援の組織から、政治、経済、社会制度の相互関係を扱うグローバルな公益財団へ発展してきたと考えられます。

その一方で、国際的な活動規模と社会的影響力が大きくなるほど、次のような問題が問われるようになります。

  • 民間財団が公共政策に関与することの正当性
  • 助成先の独立性
  • 資金配分の透明性
  • 社会的成果に対する説明責任
  • 現地社会の課題や意思を適切に反映すること
  • 政治的・法的な対立の中でも支援を継続すること

2026年現在、特に重要なのは、組織改革を終えたOSFが、現地社会との関係や支援の継続性をどのように保ちながら、新しい戦略の成果を示していくかという点だと考えられます。

10. まとめ

Open Society Foundationsは、1979年にジョージ・ソロスが開始した慈善活動を原点とし、世界的な規模で民主主義、人権、公正、社会的包摂を支援する財団ネットワークへと発展しました。

その歴史は、冷戦下の自由化支援、冷戦終結後の民主主義や市民社会の制度的支援、そして現在の経済的不平等や未来社会の課題への対応という流れで捉えることができます。

OSFの大きな特徴は、社会問題に直接対応する活動だけでなく、社会問題を生み出す制度や政策そのものに働きかける点にあります。

そのため、OSFは単なる寄付財団ではなく、助成、政策提言、戦略的訴訟、研究・教育、社会的投資などを組み合わせる組織です。

一方で、その活動は政治的な議論を呼ぶこともあります。

巨額の民間資金を活用して社会制度に関与することの正当性や、各国政府との摩擦、助成先の資金依存などは、今後も重要な論点となります。

さらに、2023年以降の大規模な組織再編によって、OSFは活動の進め方そのものを大きく変えました。

2026年現在のOSFを理解するには、創設理念だけでなく、組織改革によって何を継続し、何を縮小し、どこに新たな資源を投入しているのかを把握することが重要です。

OSFの今後を考えるうえでは、資金規模だけでなく、現地社会との関係、支援先の持続可能性、社会的成果、説明責任などを継続的に確認する必要があります。

参考文献

[1] Open Society Foundations, “Our History,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are/our-history

[2] Open Society Foundations, “Who We Are,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are

[3] Open Society Foundations, “What We Do,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/what-we-do

[4] Devex, “OSF's new strategy bets on longer-term, more flexible funding,” Devex, 2025. https://www.devex.com/news/osf-s-new-strategy-bets-on-longer-term-more-flexible-funding-109708

[5] Alliance Magazine, “Has OSF's big bet paid off?,” Alliance Magazine, 2025. https://www.alliancemagazine.org/analysis/has-osfs-big-bet-paid-off/

[6] Open Society Foundations, “Who We Are,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are

[7] Open Society Foundations, “Financials,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are/financials

[8] Open Society Foundations, “Our History,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are/our-history

[9] Devex, “OSF's new strategy bets on longer-term, more flexible funding,” Devex, 2025. https://www.devex.com/news/osf-s-new-strategy-bets-on-longer-term-more-flexible-funding-109708

[10] Open Society Foundations, “Our History,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/who-we-are/our-history

[11] Open Society Foundations, “How We Work,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/how-we-work

[12] Open Society Foundations, “Grants and Fellowships,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/grants

[13] Open Society Foundations, “What We Do,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/what-we-do

[14] Open Society Foundations, “Grants and Fellowships,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/grants

[15] Devex, “OSF's new strategy bets on longer-term, more flexible funding,” Devex, 2025. https://www.devex.com/news/osf-s-new-strategy-bets-on-longer-term-more-flexible-funding-109708

[16] Open Society Foundations, “Open Society Foundations Launch $300 Million Initiative to Advance Economic Security and Defend Civil Liberties in the United States,” Open Society Foundations, 2026. https://www.opensocietyfoundations.org/newsroom/open-society-foundations-launch-300-million-initiative-to-advance-economic-security-and-defend-civil-liberties-in-the-united-states

[17] Open Society Foundations, “Newsroom,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/newsroom

[18] Associated Press, OSFの経済的不平等と民主主義に関する幹部発言を扱った報道, 2025年9月. URL未記載。

[19] ABC News, 米司法省によるOSFへの捜査準備指示を扱った報道, 2025年9月. https://abcnews.go.com/

[20] Open Society Foundations, “Newsroom,” Open Society Foundations. https://www.opensocietyfoundations.org/newsroom

[21] Associated Press, OSFの組織再編と助成先への影響に関する報道. https://apnews.com/

[22] Alliance Magazine, “Has OSF's big bet paid off?,” Alliance Magazine, 2025. https://www.alliancemagazine.org/analysis/has-osfs-big-bet-paid-off/

[23] OECD, “Open Society Foundations,” Development Co-operation Profiles, 2025. https://www.oecd.org/en/publications/development-co-operation-profiles_04b376d7-en/open-society-foundations_19516b58-en.html