対象読者

  • ロックフェラー財団の設立経緯、歴史、組織の特徴、現在の活動について体系的に理解したい方。
  • フィランソロピー、社会課題解決、国際開発、気候変動、インパクト投資に関心のある方。
  • 財団と企業・政府・研究機関の連携や、AIをはじめとする新技術の社会実装に関心のある方。

要約

  • ロックフェラー財団は、1913年にジョン・D・ロックフェラーが設立した、世界でも長い歴史を持つ大規模な民間公益財団の一つです。
  • 感染症対策や農業技術の発展を経て、現在は気候変動、エネルギー、食料、健康、経済機会、AIなどを重点分野としています。
  • 財団の特徴は、資金提供にとどまらず、科学技術・政策・民間資本・国際的なパートナーシップを組み合わせ、社会の仕組みそのものを変えようとする点にあります。
  • 2025年には3.5億ドル超の助成・プログラム関連投資を承認し、直接・間接の資金動員を通じて社会的インパクトの拡大を目指しています。
  • 現在の主な課題は、国際援助の縮小、気候・開発資金の不足、社会的成果の測定、民間財団としての説明責任、AIの安全で公平な社会実装などです。

1. ロックフェラー財団とは何か

ロックフェラー財団(The Rockefeller Foundation)は、1913年に米国の石油実業家ジョン・D・ロックフェラーが設立した、世界でも長い歴史を持つ大規模な民間公益財団の一つです。[1][2]

創設以来の基本理念は、「世界中の人々の福祉を増進すること」です。

現在は、気候変動、エネルギー、食料、健康、経済機会を中心に活動しています。[3]

この財団を理解するうえで重要なのは、資金を提供するだけの助成財団ではなく、科学技術・政策・民間資本・国際的なパートナーシップを組み合わせ、社会の仕組みそのものを変えようとする組織だということです。

1-1. 財団の基本情報

項目 内容
正式名称 The Rockefeller Foundation
日本語名称 ロックフェラー財団
設立 1913年5月14日
設立地 米国ニューヨーク州
創設者 John D. Rockefeller Sr.
基本理念 世界中の人々の福祉を増進すること
基金規模 約60億ドル
2025年の助成・関連投資 3.5億ドル超
2025年の助成等の件数 235件
2025年のパートナー数 204
2025年のサービス利用者等 7.31億人
プレジデント Rajiv J. Shah(2017年就任)

基金規模は財団公式FAQに記載された概数です。また、2025年の活動実績は財団のインパクト報告に基づいています。[4][5]

なお、7.31億人という数字は、財団やパートナーが提供するサービスへのアクセス・利用人数を表しています。生活改善が実証された人数と同義ではありません。

1-2. ロックフェラー財団を理解する5つのポイント

第一に、設立思想が一貫していることです。

一時的な慈善活動ではなく、科学的な研究と制度改革によって社会問題の根本原因を解決する「科学的フィランソロピー」を重視してきました。

第二に、時代ごとに重点事業を変えていることです。

20世紀前半は感染症と医療、戦後は農業と食糧生産、近年は気候変動や経済格差への対応へと進化しています。

第三に、自己資金以上の資金を動かすことを重視していることです。

財団による資金投入を起点に、政府、企業、投資家、国際機関の大きな資金を呼び込む戦略です。

第四に、2023年以降、気候変動への対応が組織横断的な中心課題となっていることです。

電力へのアクセス、持続可能な食料生産、気候変動に強い医療・地域社会の構築が重要です。

第五に、国際援助の縮小や成果測定の難しさに直面していることです。

2025年のインパクト報告では、国際援助の減少を事業環境の重要な変化として挙げています。[5]

2. ロックフェラー財団はなぜ設立されたのか

2-1. 創設者ジョン・D・ロックフェラーと設立の背景

ジョン・D・ロックフェラー Sr.(John D. Rockefeller Sr., 1839〜1937年)は、米国のスタンダード・オイルを築いた実業家で、巨額の財産を形成しました。

その資産を個人への寄付だけではなく、長期的・組織的な社会問題の解決に活用しようとしたことが、財団設立の出発点です。[1][2]

財団の誕生には、特に次の3人が重要な役割を果たしました。

  • ジョン・D・ロックフェラー Sr.(John D. Rockefeller Sr.):設立資金の提供者です。
  • フレデリック・T・ゲイツ(Frederick T. Gates):財団構想を推進した主要アドバイザーです。科学的・組織的な慈善活動の考え方を発展させました。
  • ジョン・D・ロックフェラー Jr.(John D. Rockefeller Jr.):創設者の息子です。慈善活動の制度化・組織化を推進しました。

1890年代末から、ロックフェラーは医療・教育分野で慈善事業を展開しました。

その後、1901年にはロックフェラー医学研究所、1903年には一般教育委員会、1909年には鉤虫症対策委員会が発足しました。

こうした経験を経て、特定の病気や地域に限定されず、世界規模で多様な社会課題に取り組む組織として、1913年5月14日にニューヨーク州でロックフェラー財団が法人設立されました。

当初の寄付は1913年に1億ドル、その後1919年に8,280万ドルが追加され、当時としては極めて大きな規模の財団となりました。[1][2]

2-2. 1913〜1930年代:感染症対策・公衆衛生の基盤づくり

財団は設立初期から、感染症対策と公衆衛生制度の整備に取り組みました。

具体的には、鉤虫症、黄熱病、マラリアなどへの取り組みを拡大しました。

特徴的なのは、単に患者の治療を行うだけではなく、衛生教育、医療人材育成、公衆衛生制度の整備にも投資したことです。

病気を治すだけでなく、病気を予防し、対処できる社会の仕組みを整えることを重視しました。[1][2]

2-3. 1940〜1970年代:農業技術と「緑の革命」

1940年代以降、財団の活動は農業分野でも大きな役割を果たしました。

メキシコで始めた農業研究をアジアなどに拡大し、高収量品種の開発・普及を支援しました。

これらの活動は、国際的な穀物生産性の向上につながり、「緑の革命」と呼ばれる農業の変革に貢献しました。

この時期には、農業生産性を高めることで食料不足や貧困の問題に対応するという発想が中心になりました。[1][2]

2-4. 1970〜2000年代:開発・貧困・地域システムへの転換

1970年代以降は、個別の病気への対策だけではなく、より幅広い開発課題へと活動の重点を移しました。

途上国の地域医療、生活環境、農業、雇用、貧困など、複数の領域を横断する開発が重視されるようになりました。

これは、個別の技術やサービスの提供だけでは解決できない社会問題に、より包括的な方法で対応しようとする変化でした。[1]

2-5. 2010〜2022年:レジリエンス・データ・クリーンエネルギー

2010年代以降、財団は都市の強靱性(レジリエンス)、データサイエンス、再生可能エネルギーなどを推進しました。

2020年にはCOVID-19への対応を行い、2021年には国際的なエネルギー分野の連携を拡大しました。

社会課題への対応において、データや新しい技術、官民連携を活用する方向性が強まっていきました。[2][3]

2-6. 2023〜2026年:気候変動を中心にした全財団戦略

2023年、ロックフェラー財団は、5年間で10億ドル超を気候関連の解決策に投じる方針を表明しました。

電力、食料、医療、経済機会などの課題を横断し、気候変動への対応を財団全体の中心的なテーマとして位置づけています。

また、AIや革新的金融を活用する方針も強化しています。[3][5]

2-7. 113年間の歴史から見えること

財団の歴史で特に重要なのは、同じ事業を100年以上続けたのではなく、人類の福祉という使命を維持しながら、社会課題の変化に応じて投資先と活動手法を変えてきたことです。

感染症対策、農業生産性の向上、貧困対策、都市のレジリエンス、気候変動、AIの社会実装という変遷は、その特徴をよく表しています。

3. ロックフェラー財団の組織的な特徴

3-1. 「科学的フィランソロピー」という思想

ロックフェラー財団の活動原理は、一般的な寄付・慈善活動と少し異なります。

この違いを整理すると、以下のようになります。

従来型の慈善活動(典型例) ロックフェラー財団の志向
困っている人へ直接支援する 問題が発生する仕組みを変える
個別事業へ資金提供する 研究・制度・市場を組み合わせる
短期的な救済を重視する 長期的・大規模な成果を目指す
寄付額や支援件数を重視する 社会的成果や追加資金の動員を重視する
一組織による支援 政府・企業・研究機関との協働

これはあくまで活動モデルを理解するための比較です。実際には他の財団もシステム改革に取り組み、ロックフェラー財団も直接的な助成を行っています。

設立当初の鉤虫症対策が典型例です。

感染者の治療だけで終わらせず、衛生教育、公衆衛生人材の育成、行政制度の整備を組み合わせました。

**「個別の問題を解決するだけでなく、その問題を継続的に解決できる社会システムをつくる」**という考え方が、現在まで続いています。[1][2]

3-2. 「Big Bets」と呼ばれる大型戦略

財団は、複数年にわたる重要な挑戦を「Big Bets」と呼んでいます。

その構成要素は大きく3つあります。

① 新しい解決策を見いだすこと

既存の方法では解決できなかった問題に、科学・技術・制度設計の新しい組み合わせで取り組みます。

② 多様な組織を巻き込んで拡大すること

政府、国際機関、企業、財団、研究者、地域社会をつなぎ、一つの組織では実現できない規模を目指します。

③ 測定可能な成果を設定すること

プロジェクトの実施そのものよりも、何人にどのような変化をもたらしたか、実現できたかどうかを追跡します。[3][5]

3-3. 独立した財団と長期的な資金基盤

ロックフェラー財団は、現在のロックフェラー家の資産管理会社ではありません。

また、ロックフェラー大学やRockefeller Brothers Fundの上部組織でもありません。

独立した理事会、資産、事業方針を持つ非営利財団です。

財団の公式FAQによれば、基金は約60億ドルで、主な財源はこの基金の運用によるものです。

米国の連邦・州政府からの一般的な財政支援に依存しない構造になっています。[4]

2017年からは、元USAID長官のラジブ・シャー(Rajiv J. Shah)が財団のプレジデントを務めています。

この仕組みには、長期的なテーマに投資しやすいという利点があります。

一方で、基金を将来にわたって維持しながら、緊急性の高い課題への支出を増やすという資金配分上の難しさもあります。

3-4. 世界各地の拠点とネットワーク

財団の主な拠点は以下のとおりです。

拠点 主な役割
ニューヨーク グローバル本部
ワシントンD.C. 公共政策との連携
ナイロビ アフリカ地域
バンコク アジア地域
ボゴタ 中南米・カリブ海地域
イタリア・ベラージオ 研究者・政策立案者・社会変革リーダーの交流

ベラージオ・センターは、異分野の専門家が集まり、新しいアイデアやパートナーシップを形成する場です。

これは、財団の強みが資金だけでなく、人的ネットワークや政策形成力にもあることを象徴しています。[3]

4. 2026年時点の注力分野

ロックフェラー財団の公式戦略では、以下が主要な活動領域として示されています。[3]

  • Food(食料)
  • Health(健康)
  • Power(電力)
  • U.S. Economic Opportunity(米国の経済機会)
  • Innovation(イノベーション)
  • Innovative Finance(革新的金融)

その上位にある横断的な課題が、気候変動への対応です。

4-1. エネルギー:Energy Access / Power

電力を利用できない地域に、安定した電力を届けることを目指しています。

分散型太陽光発電、蓄電池、電力システムへの投資などを推進しています。

代表的な事業として、Global Energy Alliance for People and Planet(GEAPP)やMission 300があります。[3][5]

4-2. 食料:Food Systems / Nutrition

栄養価の高い食事へのアクセス改善、持続可能な農業、学校給食、気候変動に強い食料システムの構築に取り組んでいます。

代表的な事業として、Regenerative School MealsやGood Food Strategyがあります。[3][5]

4-3. 健康:Public Health / Climate and Health

気候変動による健康リスク、感染症対策、公衆衛生システム、栄養と慢性疾患の関係などに取り組んでいます。

代表的な事業として、Food is Medicineや、感染症予測・公衆衛生データ活用があります。[3][5]

4-4. 経済機会:Economic Opportunity

特に米国での雇用の質、所得向上、経済的移動の機会、地域経済の強化を重視しています。

代表的な事業として、Big Bets for Americaや、地域雇用・技能形成への支援があります。[3]

4-5. 革新的金融:Innovative Finance

助成金だけでは社会課題の解決に必要な資金の不足を埋められないため、民間資本を社会課題の解決へ誘導する仕組みづくりに取り組んでいます。

代表的な手法には、触媒的資金、インパクト投資、官民連携金融があります。[3][5]

4-6. イノベーション:AI / Data / Frontier Technology

AI、データサイエンス、新技術を、農業、公衆衛生、行政サービス、気候変動への適応に活用しています。

代表的な事業には、Cities Deliverや、AIによる感染症・災害予測などがあります。[3][7]

4-7. 現在の主な大型プロジェクト

プロジェクト 主要目標・コミットメント
Universal Energy Abundance パートナーとともに10億人への電力供給拡大を目指します。アフリカではMission 300を通じて2030年までに3億人へのアクセス拡大を支援します
Regenerative School Meals 2025年に1億ドルをコミットしました。5年間で世界の1億人の子どもへの栄養改善を目指します
Food is Medicine 米国の退役軍人などを対象に、食事・栄養改善を医療に取り入れる実証事業です
Climate Strategy 2023年から5年間で10億ドル超を気候関連の解決策に投じる方針です
Innovative Finance 2030年までに100億ドルの資金動員を目指します

これらは財団が掲げる目標、または資金コミットメントです。

すべてが達成済みという意味ではありません。[3][5]

4-8. 最新の動向:AIの社会実装を大きく強化

2026年10月14日、ロックフェラー財団とOpenAI Foundationは、都市公共サービスにAIを活用する「Cities Deliver」を発表しました。[7]

これは、財団の事業戦略上、注目すべき新しい取り組みです。

Cities Deliverの概要

項目 内容
発表日 2026年10月14日
共同コミットメント額 5,000万ドル
都市住民への到達目標 最大1億人
採択案件ごとの助成額 50万〜200万ドル
主な対象 公衆衛生、経済機会、環境レジリエンス、市民参加
提案募集期間 2026年10月14日〜11月29日
公式サイト https://citiesdeliver.rockefellerfoundation.org/

例えば、以下のような事例が支援対象として示されています。

  • コロンビアのカリ:デング熱流行の予測
  • ブラジルのリオデジャネイロ:洪水警報
  • 南アフリカのケープタウン:住民とのコミュニケーション改善

財団の事業戦略上、注目すべき変化です。

従来の医療・農業・エネルギー技術だけでなく、AIを公共サービスの提供能力を高めるための基盤技術として位置づけ始めていると解釈できます。

なお、この共同事業はOpenAIの商用技術の採用を必須としておらず、財団の発表では他社のAIモデルも選択可能です。[7]

5. ロックフェラー財団の財務規模と資金の使い方

5-1. 2025年の活動実績

2026年5月に公表された2025年インパクト報告によれば、財団は2025年に3.5億ドル超を助成・プログラム関連投資として承認しています。[5]

主な実績は以下のとおりです。

指標 2025年実績
助成・プログラム関連投資 3.5億ドル超
助成等の件数 235件
パートナー数 204
直接的に動員した資金 30億ドル
間接的に動員した資金 290億ドル
明確で測定可能な改善を経験した人数 300万人
支援サービスへのアクセス・利用人数 7.31億人

これらは財団の自己報告値です。

直接・間接の資金動員は同財団が用いる分類であり、全額を財団単独の貢献とみなすべきではありません。[5]

5-2. 2025年の地域別資金配分

2025年インパクト報告で示された地域別の資金授与額は以下のとおりです。[5]

地域 資金授与額
アフリカ 133.2百万ドル
アジア・オセアニア 93.8百万ドル
中南米・カリブ海 59.6百万ドル
北米 48.9百万ドル
グローバル 9.4百万ドル
欧州 5.6百万ドル

地域別集計であり、地域間の計数が必ずしも相互排他的とは限りません。

地域別には、アフリカ、アジア・オセアニア、中南米が重要な活動地域であることがわかります。

5-3. 財団の資金活用モデル

この資金の使い方からは、財団の重要な特徴が読み取れます。

自らの助成資金だけを事業に投入するのではなく、実証、制度設計、技術支援、民間資金の呼び込みを組み合わせることで、大きな事業規模を実現しようとしている点です。

ただし、資金動員額と社会的成果は別の指標です。

財団自身もインパクト報告の方法論で、多数の関係者が関与する事業において成果を単独の組織に帰属させることの難しさを認めています。[5]

6. ロックフェラー財団が現在直面している課題

財団が公式に認識している課題と、歴史や事業モデルを踏まえた外部的な分析を分けて整理します。

6-1. 課題① 国際援助の縮小と、増大する社会的ニーズ

2025年のインパクト報告で財団が特に強調したのが、世界各国の政府による国際援助の縮小です。[5]

政府開発援助や研究資金が削減される一方で、気候変動、感染症、栄養不良、エネルギー貧困などへの対応は引き続き必要です。

その結果、財団には、従来以上に少ない公的資源で成果を生み出すことが求められています。

今後の論点

財団単独で不足分を埋めることは難しいため、民間資金の動員、政府との協力関係の再構築、事業の優先順位づけが重要になります。

6-2. 課題② 気候変動とエネルギー貧困の両立

財団は、電力を利用できない人々へのアクセス拡大と、温室効果ガスの排出削減を同時に進めようとしています。

しかし、現実には困難な問題があります。

  • 電力インフラへの初期投資が大きいこと
  • 低所得地域では利用者負担だけで事業を成立させにくいこと
  • 政策・規制・電力料金制度が国によって異なること
  • 再生可能エネルギーの供給安定性を確保する必要があること

財団がGEAPPやMission 300などの連携を重視しているのは、これらが技術だけでは解決できない課題だからです。[3][5]

今後の論点

電力接続者数を増やすだけでなく、安定供給、料金の負担可能性、地域経済への効果を継続的に実証できるかどうかです。

6-3. 課題③ 成果の測定と説明責任

これは財団の事業モデルに伴う本質的な課題です。

例えば、2025年の7.31億人という到達人数は大きな数字ですが、その人たち全員の生活が改善したことを実証した数字ではありません。

財団の別指標では、明確で測定可能な改善を経験した人数は300万人と報告されています。[5]

指標の違いを理解する必要があります。

指標 何を測定するか
Output 何を提供・実施したか
Reach 何人にサービスが届いたか
Outcome 行動や生活状況がどう改善したか
Impact 事業によってどの程度の長期的変化が生じたか

社会課題が複雑になるほど、成果の因果関係を証明することは難しくなります。

財団は技術導入やパートナー連携の拡大だけではなく、**「実際に誰の生活が、どの程度、どれだけ長く改善したのか」**を説明する必要があります。

6-4. 課題④ 民間財団による社会的意思決定の正当性

大規模な財団は政府ではなく、選挙によって選ばれた組織でもありません。

それでも、研究資金、政策形成、医療制度、農業、エネルギーインフラなどに大きな影響を与えます。

そのため、次のような問いが生じます。

  • どの社会課題を優先するか、誰が決めるべきでしょうか。
  • 支援される国や地域の住民は、意思決定にどの程度参加できるのでしょうか。
  • 財団の資金力が研究や政策の方向性を偏らせる可能性はないでしょうか。
  • 民間企業との連携で利益相反をどう管理するのでしょうか。

これらは、現在の財団に不正が存在するという意味ではありません。

大規模な民間フィランソロピーが共通して抱える、統治と正当性に関する構造的な論点です。

6-5. 課題⑤ 過去の農業開発モデルからの教訓

財団が大きく貢献した「緑の革命」は、農業生産性を引き上げました。

一方、高収量品種、灌漑、肥料などを組み合わせた農業技術の普及によって、地域ごとの資源条件や農業経営の違いが重要な問題になりました。

今日の持続可能な食料システムを考えるうえでは、単位面積当たりの収量だけでなく、水資源、生物多様性、小規模農家の経済性、栄養価なども評価する必要があります。

こうした歴史は、財団が現在、再生型農業や地域調達を取り入れた学校給食を重視していることを理解する背景になります。

ただし、現在の戦略が過去の問題への直接的な対応として策定されたとまでは断定できません。[1][3][5]

6-6. 課題⑥ AIの社会実装に伴う新たなリスク

2026年にAIを活用する都市公共サービス事業を拡大したことで、新しい課題も生まれています。

特に、以下のような問題が重要です。

  • 住民の個人情報保護
  • AIの判断の公平性
  • 行政職員の運用能力
  • 技術ベンダーへの依存
  • 導入後の維持費

Cities Deliverの公式発表でも、都市行政におけるAI活用の障壁として、導入費用とデータ保護への不確実性が挙げられています。[7]

7. 総合評価:ロックフェラー財団はどのような組織なのか

ここからは、財団の歴史、活動モデル、現在の戦略を踏まえた分析です。

ロックフェラー財団の本質は、単なる「寄付を行う資金提供者」ではなく、社会課題を解決する仕組みをつくり、その仕組みを他の組織が拡大できるようにする触媒的な組織であることだと考えられます。

7-1. 財団の価値創出モデル

財団の活動は、以下のような流れで整理できます。

第1段階:大きな社会課題を特定する

健康、食料、電力、気候、経済機会など、人々の生活に大きな影響を与える課題を選びます。

第2段階:科学・技術・データを使って解決策を設計する

研究、実証、制度設計などを通じて、課題の解決方法を具体化します。

第3段階:助成金・リスク資金を投入する

初期投資、技術支援、実証資金などを提供します。

第4段階:政府・企業・投資家・地域社会を巻き込む

官民連携、資金動員、人的ネットワークの形成を通じて、活動を拡大します。

第5段階:社会システムとして定着・拡大させる

成果測定、制度化、持続可能性の確保を通じて、長期的な社会的成果を目指します。

このモデルは1913年の感染症対策から、緑の革命、現在の電力事業やAI活用に至るまで、基本的に共通しています。

7-2. 100年前と現在では、財団に求められる役割が変わっている

現在の状況には大きな変化があります。

かつては財団自身が、当時として非常に大規模な研究・医療・農業プロジェクトを主導することが可能でした。

しかし現在は、政府や国際金融機関、民間企業の資金規模がはるかに大きく、課題も複雑になっています。

したがって今後の競争力を左右するのは、資産の規模だけではなく、次のような能力だと考えられます。

① 課題設定力

他の組織が十分に対応できていない重要課題を特定する能力です。

② 社会実装力

研究成果や技術を実際の社会サービスに転換する能力です。

③ パートナー形成力

利害や立場の異なる組織を共通の目標へ結びつける能力です。

④ 資金動員力

自己資金を起点として、公的・民間資金を呼び込む能力です。

⑤ 成果検証力

大きな目標だけでなく、実際の改善を検証する能力です。

特に2026年のAI事業拡大を見ると、財団は今後、技術を自ら開発する組織というよりも、新しい技術を公共的価値につなげ、地域社会で継続利用できるようにする組織として存在感を高めようとしていると考えられます。

8. 今後、重点的に注視したい事項

ロックフェラー財団の今後を理解するうえでは、特に以下のテーマに注目する必要があります。

注視するテーマ 確認すべきポイント
気候変動戦略 2023年に発表した10億ドル超のコミットメントが、どの程度具体的な成果につながるか
エネルギー事業 Mission 300などの電力アクセス拡大と持続的な利用状況
食料・栄養 学校給食への投資が、栄養改善・農家所得・地域農業に与える影響
AI活用 Cities Deliverの採択案件、運用開始、住民への実際の便益
資金調達 国際援助縮小の中で、民間資本や共同出資をどれだけ呼び込めるか
組織の方向性 現在のBig Bets戦略の成果を踏まえた、重点分野の見直し

こうした観点から継続的に観察することで、財団が掲げる目標と、実際に生み出している社会的成果を区別して評価できます。

9. まとめ:113年間にわたり変化し続けてきた財団の役割

ロックフェラー財団は、過去113年間にわたり、社会の発展に重要な役割を果たしてきました。

ただし、その役割は一定ではありません。

20世紀初頭は公衆衛生制度の構築、20世紀半ばは農業の生産性向上、そして21世紀には気候変動、エネルギー、健康、AIといった複雑な問題への対応へと変化しています。

そのなかで変わっていないのが、科学的な知見を重視し、大きな社会課題を選び、他の組織との連携によって変化を広げようとする姿勢です。

今後の最大の課題は、限られた財団資金を使って、国際援助が縮小する環境下でも、検証可能で持続的な社会的成果を生み出し続けられるかどうかにあると考えられます。

また、事業連携や共同研究の対象として財団を評価する場合、資金提供の可能性だけでなく、財団が取り組む課題との一致、社会実装の規模、科学的根拠、他組織との連携可能性が特に重要な判断材料になります。

ロックフェラー財団の歴史は、フィランソロピーが単なる資金援助ではなく、科学、技術、政策、金融、国際的な協力を組み合わせて、社会の仕組みを変えていく活動でもあることを示しています。

そして2026年現在、その活動は気候変動への対応とAIの社会実装という、新しい段階に入っていると考えられます。

参考文献

[1] Rockefeller Archive Center, “Rockefeller Foundation History: Origins to 2013,” Rockefeller Archive Center. https://resource.rockarch.org/story/rockefeller-foundation-history-origins-to-2013/

[2] The Rockefeller Foundation, “Our History,” The Rockefeller Foundation. https://www.rockefellerfoundation.org/about-us/our-history/

[3] The Rockefeller Foundation, “What We Do,” The Rockefeller Foundation. https://www.rockefellerfoundation.org/what-we-do/

[4] The Rockefeller Foundation, “Frequently Asked Questions,” The Rockefeller Foundation. https://www.rockefellerfoundation.org/

[5] The Rockefeller Foundation, “2025 Impact Report: Big Bets, Real Results,” The Rockefeller Foundation, 2026. https://impactreport.rockefellerfoundation.org/

[6] The Rockefeller Foundation, “Financial Statements and Governance Documents,” The Rockefeller Foundation. https://www.rockefellerfoundation.org/governance-reports/

[7] The Rockefeller Foundation, “Rockefeller Foundation and OpenAI Foundation Announce $50 Million Partnership to Help Cities Improve Public Services with AI,” The Rockefeller Foundation, October 14, 2026. https://www.rockefellerfoundation.org/news/rockefeller-openai-50-million-partnership-cities-improve-public-services-ai/

[8] The Rockefeller Foundation, “Cities Deliver,” The Rockefeller Foundation, 2026. https://citiesdeliver.rockefellerfoundation.org/


本記事は2026年11月4日時点の公開情報に基づいています。活動実績、基金規模、事業方針、助成募集状況などは今後変更される可能性があります。数値や活動成果については、財団自身による公表値と、それを踏まえた分析・考察を区別して記載しています。